先ほど、『書物の運命』以来書評は書いていない、と記しましたけれども、例外的に、外務省発行の『外交』にだけは書評連載を一年半ほど持っていました。
この時も、ご依頼に対して条件を付けた逆提案をしたところ、それを呑んでくれたので連載に至りました。
ご依頼では、ごく通常の雑誌書評、ただし『外交』なので国際政治・安全保障や、私なら中東ものを中心に、というご要望でしたが、私の方のモチベーションや読書習慣から、「外国語の本のみを取り上げる。新刊でなくていい。学術書でもいい」という条件を出しました。
なぜそのような条件でなら引き受けたかというと、専門に関わる英語の本は職業上・必要上、目を通すが、必要な情報の読み方があって、全部読み通すことが少ない。要するにイントロダクションと結論だけ読んで、これはという部分だけ読んで内容を把握するので、全部読まないのである。専門研究のための読み方としてはそれでいい。しかし一般読者に紹介するとなると、徹底的に読んで、論や学説の適切さや妥当性を見極め、現実に起っていることとの関連でその本が存在する意義、読む価値を示さないといけない。
そういう文章でも書く仕事を引き受けないと、英語の本を必要に応じてちゃっちゃっと読むだけになってしまって身につかないな、と思ったから。純粋な釣りとは言えないが、あえて一本釣りをして見せる役割を買って出ることで釣りの技術を忘れないようにする、というような。
全く自分のための、自分に向き合った連載ですね。すみませんでした。
最初の半年間は月に一回(年度末まで)、2010年9月から2011年3月までの6回。時事通信社の編集。次の一年間は二ヶ月に一度で6回。今度は都市出版社の編集。外務省による入札方式が揺れたため、年ごとに編集や出版感覚が変わりましたが、私の連載は二年度続いたことになります。
連載が始まった頃はまだ「アラブの春」の前でした。むしろ「9・11」以後の対テロ戦争が収束に向かう段階。米国のリーダーシップや政治的意思決定過程に対して強い批判や問い直しが提示され、ブッシュやブレアなどの回顧録も出ていました。この書評欄はそれらを淡々と紐解いていくきっかけになりました。
それが連載の後半から、「アラブの春」の急速な広がりで、過去に出ていた基礎的な学術書から、急速に流動化する事態を読みとくための手掛かりを切に必要とする状況になり、書評欄がいっそうアクチュアルなものになりました(本人としては)。
これらの書評は単行本にはまだ収録されていません。
『外交』は現在24号まで出ていますが、12号までは無料で外務省のホームページにPDFが公開されているので、リンクが生きている間は、読めるという意味では読めてしまう。
下記の連載リストの各タイトルをクリックすると、外務省のサイトから直に私の記事だけが(他の記事も一部一緒のファイルに入っているが)PDFファイルでダウンロードされます。【あくまでリンクがまだ生きている場合だけです。おそらく8回目まではリンクが生きているのではないか。追記:2016年1月23日】
(1)
池内恵「リベラルたちの「改心」、あるいはアメリカ外交史のフロイト的解釈」『外交』Vol. 1, 2010年9月 156‐159頁
(2)
池内恵「グローバル都市ドバイが映し出す国際社会の形」『外交』Vol. 2, 2010年10月, 176‐179頁
(3)
池内恵「将軍たちは前回の戦争を準備する」『外交』Vol. 3, 2010年11月, 146‐149頁
(4)
池内恵「善政のアレゴリー、あるいはインテリジェンスの哲学」『外交』Vol. 4, 2010年12月, 164‐167頁
この年イギリスのケンブリッジ大学に行っており、そこでインテリジェンスのセミナーを見たり、ちょうど相次いで出版されていたインテリジェンス機関の歴史書や、インテリジェンスの理論書を取り上げた。中にはその後翻訳が出たものもある。
(5)
池内恵「聖人と弁護士──ブッシュとブレアの時代」『外交』Vol. 05, 2011年1月, 168‐171頁
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/gaikou/vol5/pdfs/gaikou_vol5_31.pdf)
ブッシュとブレアの回顧録で「対テロ戦争」の時代を振り返りましたが、この号が出る頃から、「アラブの春」が一気に広がります。
(6)
池内恵「『革命前夜』のエジプト」『外交』Vol. 06, 2011年2月, 182‐185頁
ムバーラク政権の来るべき崩壊を予言していたジャーナリストによる「革命前夜」のエジプトに関する描写で問題の真相を探る。原稿を書いた時にはムバーラク政権は倒れていなかったが、『外交』が出た時はもう政権崩壊していた。
(7)
池内恵「エジプトを突き動かす「若者」という政治的存在」『外交』Vol. 07、2011年5月、138-143頁
これはアハマド・アブダッラーという政治学者へのオマージュ。自ら学生運動の指導者でもあり、若者の政治的な可能性を深く追求し、実践活動も行いながら、道半ばで夭折。エジプトの政治活動家の間での伝説的な人物。アジア経済研究所に勤めていた時に、客員研究員でいらっしゃいました。彼に革命を見せたかった。
(8)
池内恵「イエメン 混乱の先の希望」『外交』Vol. 08, 2011年7月、154-157頁
イエメンについては数名の専門家が非常によく知っており、それ以外の誰もがよく知らない。
(9)
池内恵「ポスト9・11」の時代とは何だったのか──ジル・ケペルの軌跡」『外交』Vol. 09、2011年9月、154-157頁
ジル・ケペルは確かに中東研究に一時代を築いた。
(10)
池内恵「シリア・アサド政権の支配構造」『外交』Vol. 10、2011年11月、146-149頁
オランダの外交官が、アサド政権の宗派的、地域的、党派的構成について調べ上げた比類のない書。
(11)
池内恵「中東の要所、サウジアラビアにおけるシーア派反体制運動」『外交』Vol. 11、2012年1月、158-161頁
(12)
池内恵「ギリシア 切り取られた過去」『外交』Vol. 12、2012年3月、156-159頁
この連載もまた、くたびれ果てて終了しました。いい勉強になりました。
【追記】(11)(12)はなぜかリンクが機能しませんが、総目次のところからVol.11, Vol.12のPDFというページを開いて行くと各論稿をダウンロードできます。Vol.11はなぜかリンクが間違っていて、「巻頭随筆」の浜中さん・吉崎さんのところをクリックすると、書評欄のファイルがダウンロードされます。逆に書評欄をクリックすると巻頭随筆がダウンロードされてしまうようです。
【追記の追記】
外務省のホームページがしょっちゅう変わるのでどんどんリンク切れになったり、リンクが間違って貼られていたりします。
よって、このブログのリンクも大幅に構築し直す必要がありますが、時間がないのでできません(2016年1月23日)