タンカーの行方よりももっと重要なのは、これをきっかけに流動化したリビア内政がどこへ向かうか、ということ。
リビアの暫定政権を構成する国民全体会議(議会)は、この問題でザイダーン首相を不信任決議して解任。ザイダーン首相には汚職の嫌疑もかけられ、逮捕される前にマルタを経由して西欧に逃亡した模様。
まあこれだけを見るとよくある「混迷深まる中東情勢」という決まり文句で収まりそうだけど、もう少し考えてみよう。
まず、この動きが中長期的な混乱の激化のきっかけとなるのか。現象だけ見ていると混乱しているように見えるけれども、むしろこれをきっかけに、国民全体会議に集う各地の勢力が一体性を取戻し、国軍・治安部隊と一体となって全土の掌握を取り戻す方向に行く、という可能性もある。
後者を匂わせているのがフィナンシャル・タイムズ紙の記事だ。
“Libyan troops attack oil rebels,” Financial Times, March 11, 2014.
「16か月権力の座にあったザイダーン氏の解任はリビアにさらなる不安定をもたらすかもしれない。しかし、駐トリポリのとある西側の外交官は言う。『重要なのは、議会が合意に達したということだ。これこそが数か月もの間欠けていたことだ。これが政府と議会の実務的な関係を向上させればいいのだが』」
ザイダーン首相の解任を時期を同じくして、国民全体会議とリビア国軍・治安部隊が協力して、各地の武装勢力の掌握する石油施設の奪還に向かっているという。手始めはシルト。カダフィの故郷ですね。
“Pro-government fighters poised to retake Libyan oil installations,” Finantial Times, March 12, 2014.
リビアの民兵集団の割拠は問題だが、そもそも各地でそれぞれにカダフィ政権打倒に立ち上がったという3年前の政権崩壊の経緯からいえば、しばらくの間はやむを得ないとも言える。民兵集団は実際に各地で警察の役割を果たしている場合も多い。また、リビア暫定政府側の治安部隊を構成しているのも、もとはこういった民兵集団だった。
“Shadow army takes over Libya’s security,” Finantial Times, July 6, 2012.
不可測性が高く、どの地域を誰が仕切っているかを知らないといけないから、外部の人間にとっては非常にやりにくい状態だが、住んでいる人にとってはそれほど治安は悪くないだろう。
結局は各地の勢力をどう中央の制度に取り込んでいくか、その際の交渉でどのように権限や利益を配分していくかが、リビアの移行期政治の主要なテーマだ。
武器を持っている勢力が無数にあるから、要求を通そうとする時に「手が出る」場面もあるが、意外に抑制的、という印象だ。それほど人が死んでいない。
これを機会に国軍を一定程度強め、各地の民兵集団を統合していくプロセスが進めば、安定化に向かうかもしれない。
しかしおそらく問題は単純ではない。ザイダーン首相は「北朝鮮籍タンカー」への攻撃を軍に命じたものの従わなかったと主張している。後任の暫定首相が軍最高司令官のアブドッラー・サニー国防相だというのも気にかかる。軍がサボタージュして首相を追い落とし、行政府の中での権限を強めたという可能性も否定できない。
しかし軍を直接統制できる人物を首相に置きたいというのは、現在の国民全体会議の意志でもあるだろう。
いずれにせよ、一度武器が拡散して、各地で民兵集団が組織されたという現実から始めないといけないリビアは、戦国時代並みの割拠状態を近代国民国家に作り替える膨大な作業を行っているということなので、長い目で見ていくべきだろう。