リビアの謎のタンカーは米海軍特殊部隊が拿捕

 リビア東部の民兵集団が占拠した石油施設から原油を船積みして追っ手を振り切って外洋にでたタンカー「モーニング・グローリー号」が、3月16日深夜に米海軍特殊部隊SEALSが強制的に乗り組んで拿捕した模様です。

“U.S. forces seize tanker carrying oil from Libya rebel port,” Reuters, March 17.

“UPDATE 3-U.S. forces seize tanker carrying oil from Libya rebel port,” Reuters, March 17.

 この件について、『フォーサイト』にまとめておきました。

「リビア反政府民兵のタンカーが米海軍特殊部隊によって拿捕」『フォーサイト』2014年3月17日

有料ですが、素材は主にLibya Heraldから、

“Oil stoppages cost Libya over $10 billion – Abufunas,” Libya Herald, 31 December 2013.

こういった記事をひたすらちくたく読んで整理したものです。ですので、こういった元記事を読んでいただいても良いです。

 前回のものは無料公開になりました。「リビア東部の「自治」勢力から石油を船積みした「北朝鮮船籍」タンカーの行方は」『フォーサイト』2014年3月12日

 このブログでは「リビアの石油のゆくえ」でも続報を書いていましたが、一応このタンカーについては国際市場への密輸を阻止したようです。

 タンカーの行方を把握し、ミサイル駆逐艦ルーズベルトを拠点とする特殊部隊によって制圧した米国は、リビア中央政府への支持と、国民統合への支援の意志と能力を見せたと言えるでしょう。

 しかしリビアでは、賃金未払いへの抗議とか、部族の中央政府への要求とか、民兵集団による地域主義・利益配分の要求とか、選挙されながら結果を出していない国民全体会議(議会)への解散要求とかで、しょっちゅう石油施設が閉鎖されています。

 それに対して中央政府はしばしば「最後通牒」を突き付けて「軍部隊で突入するぞ」とか言っていますが、実際には突入しないで誰かが仲裁して「まあまあ」と収めているようです。

それを「生ぬるい」といって別の所でデモが起きてそのまま政府施設や石油施設を占拠しちゃったり、占拠が解除された場所にまったく違う勢力が入ってきて占拠したり、そもそも取り押さえるはずの軍部隊が元来は民兵集団上がりで、しょっちゅう占拠する側に回る、というカオス的だがなんとなく自生的秩序がある状態が続いております。

 まあ分離主義になるより、中央に要求を出しているだけ、国民統合の観点からはマシとは言えます。その意味で、今回米軍の実力行使で国際石油市場への独自の輸出ルート確立を阻止したのは良かったでしょう。

 しかしこういった原則・基準は国際政治のパワーバランスや規範の推移の中で変更が可能なもので、1990-91年の湾岸危機/湾岸戦争以来、米国と協力してきたイラク北部のクルディスターン地域政府(KRG)は、トルコを経由した密輸を実質上黙認されようとしています

 そんな話も、トルコを軸に解説していきたいですが、事実関係だけなら例えば、経産省の外郭団体に組織された「イラク委員会」のホームページには、イラクとトルコをめぐる外務省の公電(新聞切り抜き)が抜粋で載っていますから、それを昨年11月頃から、そのような意識で見ていくと、何が起こっているのかぼんやり浮かび上がってきます。