20年後の中東はどうなっている?(月刊『文藝春秋』2月号に寄稿しました)

最近出た文章を一つ紹介。メモ代わりに。

池内恵「米国なき後の中東に何が起こる」『文藝春秋』2014年2月号(第92巻第3号、1月10日発売)312-314頁。

「『20年後の日本』への50の質問」という特集の中の一本として寄稿しました。

実際には20年後を予測することなどできないので、これまでの20年ほどを振り返って、その延長線上に今後の20年はどうなるか、について考えてみました。

20年ちょっと前に起きた、中東の現在を方向づけた最も重要な出来事が、1991年の湾岸戦争。それと同時にソ連は崩壊し東側陣営がなくなっていました。それまでに世界を二分していた「東西冷戦構造」が消滅した。

特にロシアの大国としての地位が消滅したことで、とくに中東では米国一極覇権が確定。ペルシア湾岸(世界の原油輸出の多くを占める)やエジプト(東西貿易の要衝のスエズ運河を押さえる)に確固とした足場を築き、そこから「新世界秩序」の建設を謳ったのは、ブッシュといってもお父さんの方のジョージ・H・W・ブッシュ米大統領。

今の現役世代の多くは、湾岸戦争以後の米国の一極覇権の時代を当然のように生きてきた。日本は資源でも、資源や商品を運ぶための死活的な海路(シーレーン)でも、空気のように米国の覇権に依存していられた。

2013年に中東をめぐって起きた国際政治の変化は、こういった前提が揺らいでいることを感じさせました。2014年はもっとこれが明らかになるかもしれません。

20年後となると・・・・積み重なった変化が、より質的な変容をもたらすのか?あるいは米国が持ち直すのか。

私自身は、米国の軍事力や技術力やソフト・パワーなど、力の絶対量では、当分の間、依然として抜きん出ている状態が続くと思っているので、「米の衰退」を強く主張するのではなく、米国の覇権が「希薄化している」という表現で常々議論しています(それでも雑誌やテレビへのコメントをすると、編集側が「米の衰退」と見出しをつけてしまうのです)。つまり力はあるのだけどそれを実効性のある形で行使できない。

そこには2003年のイラク戦争に突き進み、フセイン政権そのものは簡単に打倒したものの、アラブ世界のイスラーム主義勢力の強硬派の勃興を招き、多くの血を流し、米国民がトラウマ(精神的な傷)を負った、というところが最も根本的な原因になっています。この傷が癒えない間は、米国の覇権は「希薄化」を続けるのだろうな、と思います。

そんなこんな、国際政治を議論する多くの人が感じていることを、中東を起点にシンプルに書いてみました。

ただし現実には、今後の20年の間には、ここで予想もしていなかったことが起こるでしょう。私には予知能力はありません。でも頭を絞って、今ある情報、見えてくるものから未来を予見しようと努力しないといけません。