シリア内戦や「イスラーム国」、ジハード主義の運動についていい記事をよく載せている『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』のブログをたまに見ているが、ジョナサン・リテルの『ホムスのノートブック(Carnets de Homs)』が英訳されることを知った。
英語版の序文が転載されている。
Jonathan Littell, “What Happened in Homs,” The New York Review of Books, March 18, 2015.
フランス語版は2012年に出ている。
Jonathan Littell, Carnets de Homs, Gallimard, 2012.
2012年の1月から2月に反アサドの反政府抗議行動の中心都市ホムスに入ったリテルのルポである。ホムスは長期間包囲され、執拗な砲撃を受けた上で陥落した。シリア内戦の酷薄さを代表する象徴的な街だ。
リテルは作家なので、政治分析は全く期待していないのだが、西欧の、特にフランスのインテリの頭の中にシリアなどレバント地域はどのように映っているのか、シリア内戦や「アラブの春」がどのような想像を掻き立てているのか、うっかり、あからさまに示しているのではないかと思ってフランス語のこの本には注目していたが、じっくり読むというような余裕がなかった。英語になってくれるとさっさと読めていい。
ジョナサン・リテルといえば、ナチス親衛隊将校の視点で描いた『慈しみの女神たち 上』(上下、集英社、2011年3月)が翻訳された時にずいぶん話題になった。原題はLes Bienveillantes、英訳はThe Kindly Ones。この本でゴンクール賞受賞。
『慈しみの女神たち』はフランス育ちのアメリカ人がホロコーストをやる側の視点で書くというところが倒錯的で、多分いろいろなものに取り憑かれた人なのだろうけど(フランスの文筆家その他の言い草一般に言えることですか・・・・偏見ですみません。好感を示しているつもりなのですが)。
この人が抑圧のシリアの蜂起と包囲下の都市にわざわざ出向いて、自由への希望と欠乏と暴力と死を描く。自分の妄想のみを見てくるのだとしても、フランス文化として面白い。(ついでに、ジル・ケペルの『中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド』の面白さも、フランス文化としての面白さという側面があります。わかる人にだけわかる本なので、あまり宣伝していませんが・・・)