【インタビュー】週刊東洋経済に『増補新版 イスラーム世界の論じ方』について

インタビューが昨日発売の『週刊東洋経済』に掲載されています。

嬉しいことに、『増補新版 イスラーム世界の論じ方』について話を聞きに来てくれました。

「ブックス&トレンズ 『増補新版 イスラーム世界の論じ方』を書いた池内 恵氏に聞く」『週刊東洋経済』2016年6月18日号(6月13日発売)

【今日の一枚】(3)リビアの分裂状況(その1)沿岸部(2016年2月)

今日の地図。リビアの分裂状況。

リビアの複数の「議会」に基づく複数の政府や、国連の支援の下での挙国一致政府の拠点、また様々な民兵集団の群雄割拠については、いろいろな地図がある。その中で「イスラーム国」がどこにどのように出てきているのかなども報道機関が地図による表現を競うポイントだ。

ここではBBCが今年2月初頭に出していたものをメモ的に転載しておこう。何がどうなっているかは自分で読んで調べてみてください。

リビア全土での勢力分布については別の地図をBBCは掲げてきたが、ここでは内陸部のあまり人が住んでいないところは除外し、沿岸部のみ塗り分けている。これも一つの見識ですね。

地図が載っていた記事本体の内容はあまり気分がいいものではないが。

BBC Libya competing groups January 2016
“Control and crucifixions: Life in Libya under IS,” BBC, 3 February 2016.

【今日の一枚】(2)サイクス=ピコ協定の「完全版」

今日の一枚。

サイクス=ピコ協定にロシアとイタリアが参加
(出典:イギリスのナショナル・アーカイブに入っている地図で写真が広く出回っていますが、ここではウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事から。“Would New Borders Mean Less Conflict in the Middle East?,” The Wall Street Journal, April 10, 2015.

有名な英・仏のサイクス=ピコ協定は、実際にはロシアとイタリアの同意も得たものでした。その部分を黄色と緑で書き加えた地図です。土台になる地図は有名なサイクス=ピコ協定のものと同じ”A Map of Turkey in Asia”ですね。

中東の第一次世界大戦前後について「英・仏」にのみ注目すると、中東国際政治の力学を忘れてしまいます。

英・仏のサイクス=ピコ協定を、ロシアは以前から主張していた、アナトリア東部のアルメニア人が多いエリアの支配と、そして何よりも、イスタンブルとその周辺のボスフォラス海峡・ダーダネルス両海峡の支配を認めさせることを引き換えに、承認しています。

イタリアも、現在はギリシア領のエーゲ海・地中海沿岸諸島の一部を領有していたのですが、対岸のアナトリア半島の領有をも主張したのですね。「サン・ジャン・ド・モーリアンヌ協定」などとも言われます。この本の索引を見ると、いちおう触れられています。

『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)

おそらくアフリカについては英・仏による分割、直線の国境線による切り分け、というものが主たる動因で決定的な意味を持ったと理解していいのでしょうが、中東の場合、ロシアの南下政策によるクリミアや黒海沿岸の征服とイスタンブルと両海峡地域への進出、また後にはオーストリアのバルカン半島への進出、またドイツの中東進出があり、それに対する英・仏が中心となった西欧列強の勢力均衡を基調とする「東方問題」の外交が関与したというところが基本構図です。

その基本構図を知っておいてこそ、現在の中東情勢も奥行きを持って見ることができます。

ああ地図っていいですね。

【今日の一枚】(1)中東「一人一国」構想

昨日は新コーナー「いただいた本」の第1回でしたが、今日は「地図で見る中東情勢」のカテゴリーを復活させてみましょう(高坂正堯『世界地図の中で考える』(新潮選書)も再刊されましたし)。

PCで右下にあるカテゴリーから「地図で見る中東情勢」をクリックしてみていただけるとわかると思いますが、以前は結構本格的に、地図をコピーしてきて解説していました。

もっといろいろ解説してみたいテーマはあるのですが、これはかなり時間がかかるので、現状では当分以前のような規模ではできません。

これだけ労力をかけるなら、本にした方がいいのでは、という気もします。

しかし本来は、インターネット上で回ってきた面白い記事の面白い地図を一枚貼って記事にリンクして「こんな地図あるよ」「記事読んだら面白かったよ」と伝えたいだけだったんですね。このブログの開設の発想そのものが。

それがいざ書くとなると、不特定多数に読まれるものだから詳細に解説しないといけない、地図も複数揃えて誤解のないように完備させないといけない、と考えるうちに、本格的なものになってしまいました。

しかし初心に帰って、これからは、特にブログに通知する連絡事項がないときなどに、ほいっと気楽に一枚地図を貼り付けてみようかな、と思います。

解説もほとんどしませんので、自分で調べてみてください。

今日の地図はこれ。

中東一人一国構想Onion
“Everyone In Middle East Given Own Country In 317,000,000-State Solution,” The Onion, July 17, 2014.

私はこれを「中東一人一国構想」と呼んでいます。

これは日本で言うと『虚構新聞』みたいな、元祖冗談新聞のThe Onionに以前に載っていたもので、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)
を読まれた方には意味がピンとくるのではないかと思います。

本当はこの地図は、サイクス=ピコ協定とか、最近の中東分割案のいろいろな地図とかと合わせて紹介しようと思っていたのですが、そんなことをやっている時間もないし、サイクス=ピコ協定関連は本にしてしまったし、ということで、「一枚の地図」で紹介。この地図の意味するところを、ご自由に調べていってみてください。

【いただいた本】高坂正堯と戦後日本

ブログの新企画で、「いただきもの」シリーズをやるよ、と予告してしまったので第1回。緊張するな。自意識過剰。

いろいろ考えたんですが、最近いただいたということもあるし、またいろいろ考えるとこれかな。

五百旗頭真・中西寛(編)『高坂正堯と戦後日本』中央公論新社、2016年5月

これいい本ですね。大変いい本です。

この本の元になった研究会を後援(というか主催)したサントリー文化財団からいただきましたが、とにかくいい本です。手元に置いておいて損はない本だと思いますよ。

学問のあり方と、学者の人生、戦後史の中に位置づけられた学説史や、出版文化について、今考えるるべきことが、高坂をめぐる文章という形で、書かれている。懐古趣味の本ではありませんし、サントリー文化財団は、縁が深い人のことだから後援しているのではなくて、本当に今書いて出す意味があるテーマだから全力で支援しているのだな、ということが分かります。高坂を全力で語る論者たちが、手を抜いていません。抜けないのですね。

『アステイオン』の30周年特集と合わせて読むといいとも思います。この特集だけで、戦後思想史をめぐる一冊の本を読んだような体験をしました。『アステイオン』の特集の方には、私は本来は依頼されていて書くはずだったのだけれども書かなかった(書けなかった)。書かなくてよかったと思います。私が書けば、不必要なものになりました。

どうもありがとうございました。

【新カテゴリー】寄贈していただいた本に現れる、日本の学問と言論の状況

突然に新コーナーです。

このブログは開設当初は中東のニュース解説をかなり詳細に行ったり、人質事件などの際には日本の大手メディアやソーシャル・メディアに流れる情報を整除し、適切な指針を示すクリアリング・ハウス的な役割を持たせるなど、臨機応変に性質を変えてきました(当初は手軽なFC2ブログを使っていましたが、2015年の半ばから、少し投資して、ikeuchisatoshi.comを設けました)。

最近は、本や論文・寄稿の記録や、講演・テレビ出演に関する事前の告知が多くなっています。『イスラーム国の衝撃』以来、単行本を出すと「サポートページ」を開設して関連情報を一元的に集約することも慣例になっています。

これらだけでもかなり頻繁に更新しているのですが、コンテンツがひたすら「私」に関するものばかりになるのも、若干息が詰まるような気がしないでもありません。

中東ニュース解説については『フォーサイト』の「池内恵の中東通信」を開設して、いわばブログで試験的に行ったものを商業媒体へスピンオフしてみる試みにつなげました。ソーシャル・メディア向けの多面的な情報発信ではすっかりFacebookのアカウントが中東情報伝達のメディアとして定着したので、このブログではあまり行う必要がなく、ブログは私自身の仕事に関するデータベースとしての機能を主に担うようになってきています。

なお、英語圏を見てみますと、研究者個人が自分の仕事の公式発表・情報集約のためのブログを開設しておくことは、若手・中堅世代では標準となりかけています。

しかし私が本や論文で苦しんでいるときは更新が滞るので、時々大きく更新の間が空く。

そんな時に、毎日ほんの少しの時間と労力で、文章もほとんど付さずにアップできるものはないか?と考えているのですが、ここのところ考えているのは、これまでに「いただいた本」を一つずつ挙げていく、というものです。

ありがたいことに、研究を進めていく過程で、いろいろな研究会・勉強会や学会パネルに呼んでいただいてきました。それらのつながりで出会った同世代の優秀な研究者が、次々に本を出されますが、そんな時に、学閥・学派などのつながりはなく、新聞の書評欄などに恒常的に場所を確保しているわけではない私などにも、献本を送ってくださることがあります。

もらったからうれしいというだけでなあく、こんなに優れた本を出す人たちと、研究会で肩を並べ、必要があるとメールなどのやり取りもし、何か企画・機会があると思い出して呼んでいただいたり、こちらがお誘いして快くお引き受けしていただけたりすることが心底うれしい。そしてそれぞれの方々が本を出された時に、送っていただけると、何よりも変えがたい喜びとなります。私はあまり人づきあいがないので、よく知っていると思っている先生方も、考えてみると何かでご一緒して以来、その後は本のやり取りが主であって、顔を合わせた回数は本の数回、ということが多いのです。

そういう先生方は、私のことを高く評価しているから本を送ってくれるのではなくて、私から以前に献本されたから自分が本を出す時には義理固く献本し返してくれている、というだけではないかと思われますが、ですが、そうやって送っていただいた本を改めて取り出して並べてみると、壮観です。

私は最近、いくつかの本を書いて、そしてすぐにまた重要ないくつかの本を書いていかないといけないという正念場に立たされており、その準備のためにも研究室を大幅に整理しています。物理的に環境を整えることで、頭も整理して、これからの研究と執筆の余地を作らないといけない。

そんな時に、直接自分の研究とは関係がない、しかし領域を超えた様々な研究会や学会でご一緒させていただいている先生方が送ってくださった重厚な著作が研究室のあちこちで見つかります。それらを手に取ることで、やる気が出てきますし、また目指すべき高い水準を思い知らされます。

それらの戴いた本の多くは、私が直接論文や本で引用するものではないので、整理してどこかにまとめて並べておいて、将来時間ができたときに、あるいは一回り大きな視野でものを見る時期に至った時に、再び手に取って読み直してみたいのですが、そのためにも、このあたりで、ひとまず戴いた本の総体を情報として整理してみたいという気になってきました。

そんなこんなで、時々ぽろっと、順不同で、「いただいた本」の表紙写真などがブログに掲載されるかもしれません。これは「書評」ではありません。それらの本について、私は評価する能力がないからです。単に、いいな、と思ったら紹介するだけです。

何しろこれまでに戴いた本の数は膨大で、先端研で与えられてきた潤沢なスペースに構築した広い研究室のあちこちから発掘されますので、ブログのコンテンツとして尽きることはありません・・・

いただいた本を並べてみると、現在の日本の学術の世界の特定の分野での活発な発展の所在とか、言論空間の刷新・活性化の方向性などが、見えてくるのではないかと思います。あくまでも私が接点があって本をいただいた場合に限るので、なんら包括性はないのですが、しかしかなり多くの、優れた研究者の方々にお会いして、仕事をして、本を送っていただいていますので、それをこつこつとデータにして集積して全体を見渡してみると、近年の日本の学術の世界や専門書出版の世界は、なかなか捨てたものではないと再認識させられるのではないかと思います。

第一回はいつ、どの本にしましょう・・・ありすぎて選べない。

この企画は皆さんが忘れたころに始まります。

【寄稿】シリア内戦の現状と中東国際秩序について『潮』7月号に

『潮』7月号にインタビュー記事が掲載されました。

池内恵「サイクス=ピコ協定-100年後の課題と中東の未来」『潮』2016年7月号(7月5日発売)、50‐55頁


『潮』2016年07 月号

『潮』には、「アラブの春」など中東への関心が高まった折に、何度か大きめのインタビューのご依頼をいただきましたが、激動の中東情勢を追いかけるので精いっぱいで、頭もまとまらないため、たいていはお断りしていた記憶があります(たいてい極端に忙しくて返事もできない。以前はファックスで依頼文が来ていた覚えがあります)。

今回、毎回お断りするのもなんだからとお引き受けした次第です。

月刊誌で語り下ろし・インタビューというと、かつては『文藝春秋』や『中央公論』だったと思うのですが、それらの雑誌では、最近は、長めのインタビューや対談では分析的なものはほとんど載らなくなりましたね。

短いコラムなどでは良いものが乗っても、編集部が大向こう受けを狙ったとみられるカバーストーリー的なインタビュー・対談は、書き手もテーマも画一化している様子があります。単調な煽り気味のものか、あるいはそもそもテーマが大部分が高齢者向け。

一般読者の関心をことさらに引くことを求められないのは、月刊誌・隔月刊誌としては『潮』や『外交』でしょうか。

そして『公研』『アステイオン』は、それぞれの母体の財団が、それぞれの関心や使命に基づき、存分に支援してくれています。

研究機関の雑誌やホームページも、学術的なものと広報的なものとの両方が、過度に一般読者の関心に合わせなくてよい場所を提供してくれるようになっていると感じます。

言論の場も、移っていくということでいいのかな、と思っています。

【講演】7月の予定(2)大阪経済大学「黒正塾」の寺子屋シリーズで講演

関西方面の方へ。

大阪経済大学で、公開講演を行います。

日時:7月2日(土)
演題:イスラーム教とグローバル社会

大阪経済大学日本経済史研究所が主催している「黒正塾」の一環の「第18回寺子屋」シリーズの一つの回です。今年は「イスラームの過去・現在・これから」と銘打って、イスラーム教やイスラーム世界を共通テーマとするようです。

大阪経済大学黒正塾2016

歴代、立派な歴史学者の先生方が講演しているシリーズですので、心して臨みます。

参加は無料ですが、「e-mail、FAX、ハガキのいずれか」で6月15日までに申し込む必要があります。詳しくはホームページをご覧ください。

普段はクローズドな研究会や学会でしか話をしないのだけれども、ここのところ一般にも公開された講演会の予定が相次いだので、ブログで連続して通知してきた。

昨日告知した戦略研究学会・定例研究会と、今回の大阪経済大学での講演以外は、当分一般公開の講演の予定はなさそう。本の執筆に集中しないといけません。

【講演】7月の予定(1)戦略研究学会の公開講演会

5月末から6月にかけての一般向けの公開講演について以前に続けて告知をしました。先月末の新潮社ラカグでの講演、先週末にかけての駒場での講演二つで、それらがほぼ終わりかけておりますが(慶應でまだ一つ大きなものが残っている)、今度は7月の一般向け講演の告知を二つほど続けます。

まず一つ。

戦略研究学会の第47回定例研究会で公開講演をします。

演題 「イスラーム国の衝撃―国際テロの組織原理」
日時 平成28年7月9日(土)14:00~16:00
会場 明治大学リバティタワー 9階 1096教室
(東京都千代田区神田駿河台)

『イスラーム国の衝撃』(文春新書)の刊行から一年半がたって、その後の展開を視野に入れ、自説の再検証も含め、準備して臨みます。

定例研究会は会場費や資料などの実費程度の負担(非会員は1000円)で、一般に公開されています(過去の定例研究会のリストはこちら)。

【寄稿】『外交』5月号に中東国際政治論を

外交専門誌『外交』(外務省発行、都市出版発売)に寄稿しました。

池内恵「中東にみる「国民国家」再編の射程—サイクス・ピコ協定から一〇〇年の歴史的位相」『外交』Vol.37、2016年5月号(5月27日発売)、112-120頁


『外交』 vol.37 特集:アメリカ大統領選挙の行方

『外交』という雑誌にはかなり専門的なことも書けるので、依頼を受けて余裕があれば書いていますが、ここのところご無沙汰していました。第1号から第12号までは洋書の書評を連載していました。

バックナンバー目次はこちらから。第12号まではPDFで各論文が読めるはずですが、URLが混乱していたりするところがあるかも)

『外交』とは何か、と言いますと、民主党政権の時の「仕分け」の対象になって、都市出版が長く刊行していた『外交フォーラム』がなくなった後継誌ということもあって、外務省が発行元となる(ために商業的な流通がしにくい)、編集実務を請け負い、発売元が時事通信社と都市出版の間で数年ごとに行ったり来たりしてよくわからん、といったハンディがありますが、育っていってほしい媒体ではあります(役所の公式見解とか、各種「学会」の順送りで選定されてくると思しき、目線が読者と公共圏を向いていない、若干要領を得ない書き手が少ない時は、読みごたえがあります)。

今回は、編集長の中村起一郎さんに聞き役になってもらい、いったん叩き台を作ってもらった後で私が大幅に書き直すという形をとりました。その結果、一問一答形式に放っていませんが、語り下し風の文体になっています。最近本を数冊出して、次の数冊を書いているところですので、ゼロから論稿を書くのが大変そうでしたので。

ふつうはそういう時は寄稿そのものをお断りするのですが(『外交』も過去何度かお断りしていると思います)、今回は、そろそろ中東国際政治の現状について考えをまとめて、現段階での認識を記録しておくのもいいかと思いまして。

最近そういった関心からいくつかインタビューを受けていて、そのうち一つはすでに時事通信社のe-World Premium 5月号に載っています。また、潮出版社の『潮』7月号にもインタビューが載る予定です(おそらく本日発売)。

e-World Premiumでは、シリアとイラクで包囲攻撃が進む「イスラーム国」の今後はどうなるのか。

『外交』では、100年前のサイクス=ピコ協定や第一次世界大戦・戦後を起点とする中東国際政治秩序の形成と、現在の変動について、全体像を。

そして『潮』では、シリア内戦と「停戦」や和平交渉について実態を分析しています。

それぞれが関係しあっており、重なり合うところも多いテーマですが、インタビュアーの関心によって重点が変わるので、同じ対象について同じことを語っていながら、大きく趣を異にする論考になりました。

インタビューを受けたのはいずれも連休明け直後です。その後の展開を予測した部分が多いのですが、たいてい予測通りに進んでしまったので(シリア内戦などについては、現実と、外交上の建前とか公式見解とかプロパガンダ情報を見分けることができれば誰にでも展開は予測できると思うのですが・・・)、あえて予測して見せる必要がなくなってしまい、削ったところもあります。

そのため、普段なるべく避けているインタビューを短期間に複数回受けた甲斐があったと思いました。自分でこのように書き分けるのはかなり頭を使いますし、労力がいりますから。

 

索引を公開『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』

「サポートページ」と銘打っているので、たまにはカスタマーサービスらしいことを。

昨日「重版出来!」とお知らせしました『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)ですが、最後まで読んでいただいた方にはお分かりと思いますが、この本では、予定のページ数のぎりぎりまで本文で使い切ったため、索引を掲載しておりません。そこで、ウェブ上に掲載する旨を末尾に書き添えてあります。

これもお気づきになった方がすでにいるかもしれませんが、新潮選書のウェブサイトのこの本を紹介するページに、著者のプロフィールなどと並んで「索引」というタブが設定されております。これをクリックすると索引が出てきます。紙幅を気にしなくていいためかなり手厚く項目を拾ってあります。

こんな感じですね。

索引新潮選書サイクスピコ協定

 

すでに読んだ方はこれを手掛かりに見落としていた部分を読み直してみたり、まだ読んでいない方は索引から内容を想像してみてください。

重版出来!

『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)が重版されることになりました。ただいま印刷中。

学術的な本ですから、世間を騒がすベストセラー(狙い)の本よりは一ケタ少ないですが。出版社の側はこの程度は当然、予想の範囲、と強気ですが、私は、刊行一週間でこの本に重版がかかるのは、奇跡的なことといっていいかなと思います。

新潮社のラカグでトークをした5月30日の段階で、売れ行きが結構いいので、品切れにならないように重版をしておくことがほぼ決まっていましたが、部数が決まりました。

といっても現存する初版が全部売り切れたわけではないので、今後市場には初版と重版が混在することになりそうです。内容は全く同じです。

選書はそもそも初版が少部数で、重版の数も堅実に積み上げてじっくり売っていくものですし、この本も長期的に本屋に置かれ続けることを念頭に企画してありますがが、それにしても出足が早いのはめでたい。こういう本でも重版がかかる、ということを示すことこそが、一つの目標でした。

この本が意義を持って社会の中で生きていくための、最初の関門を突破したようです。

【寄稿】NewsPicksに中東の歴史書の紹介3冊

NewsPicksのオリジナル記事として、3冊を選ぶ書評を寄稿しました。

池内恵「中東の現在を読み解くための歴史書」『NewsPicks』2016年6月1日

NewsPicksに無料登録すると読めるはずです。

書評者が3冊選んで紹介する欄ですが、選んだ3冊は以下のものです。

また、関連して、これも挙げています。

そして、英語でペンギンブックスでお手軽に読める、最新の名著にも言及しておきました。これらを並べて読めば中東の近現代史の重要なところはほぼすべてカバーできるでしょう。

この4月から、試験的に、NewsPicksの「プロピッカー」となって、手が空いた時にニュースの選定をしています。私の方針は、あくまでもNewsPicksが報道各社から集めて日本語で提供するものに関して、中東に関するものでそれなりに意味のあるものをピックする、というものです。ピッカーの中には自分でウェブ空間から記事を探し出してきて紹介している場合もあります。

それほど多くの中東記事が流れてくるわけではないので、時事や朝日新聞や産経新聞やAFPの中東記事がNewsPicksに配信されて来たのを見つけるとピックする、というのが常態となっています。いわば意識して「受動的に」日本語で流通する中東情報を見てみる機会とするのですね。

これに対して「能動的」にニュースを取りに行って、抄訳し解説しているのが新潮社『フォーサイト』の「池内恵の中東通信」です。異なる読者層に対して異なるアプローチをとっている、とお考えください。

私としては、紙の新聞を読まず、ウェブ版を有料購読もせず、スマホのニュースアプリでニュースを読む、という近年の若手・中堅世代の情報消費の動向を、当事者となって調査するつもりで参加しています。

私自身は、中東について研究する際に日本のメディアを参照することは、まずありません。何か日本に関係する事件が中東に起きたときだけは、「どのようなことが報じられているのかな」と日本語の新聞やテレビを体系的に見ます。日本語で書かれているものを全部集めて取捨選択すればそれなりに情報はあるのかもしれませんが、その労力を払えないのです。そこで、NewsPicksに集まってくる中東記事を、サンプルとして定期的に見るようにすれば、そこから日本の中東報道や中東理解について、何かが見えてくるかもしれない、と思って参加しています。

【寄稿】新潮社『波』6月号は新潮選書フェアの別冊が綴じ込みに

新潮社『波』2016年6月号

新潮社の『波』で、新刊『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)について、インタビュー仕立ての解説を自分で書いています。

編集者との掛け合い、という形です。実際にこういう会話を編集者としながら本の企画を立てていったので、それを私が再現したという形です。

池内恵「日本人が陥る中東問題のワナ」[池内 恵『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』著者インタビュー]『波』2016年6月号

なお、このインタビュー形式のコラムは、月刊のPR誌『波』の中ほどに別冊のようにして綴じ込まれています。誌面の中ほどに、緑色の表紙がもう一度ついた別冊が入っていて、そこで新潮選書を特集しています。ちょうど新潮選書は5月に「ベストセレクション2016」というフェアをやっているのです。

『波』6月号の目次から新潮選書フェアの部分だけ抜き出してみましょう(この部分だけ紙質が変わり、ページ数が付されていません)。

新潮選書フェア
[猪木武徳『自由の思想史 市場とデモクラシーは擁護できるか』著者対談]
猪木武徳×宇野重規/自由と不自由のあいだ

阿川尚之『憲法改正とは何か―アメリカ改憲史から考える―』
待鳥聡史/憲法はどう生かされているか

[池内 恵『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』著者インタビュー] 池内 恵/日本人が陥る中東問題のワナ

[服部泰宏『採用学』著者インタビュー]
服部泰宏/うちの会社にとっての優秀さとは何か?

高坂正堯『世界地図の中で考える』
細谷雄一/なぜ「悪」を取り込む必要があるのか

新潮選書ベストセレクション2016

 

最後の新潮選書ベストセレクション2016ではフェアの一覧表が載っており、私の『中東 危機の震源を読む』も挙げてもらっています。

選書フェアに合わせてなのか、新潮選書の今月のラインナップは特に力が入っています。猪木武徳先生の『自由の思想史 市場とデモクラシーは擁護できるか』と、阿川尚之先生の『憲法改正とは何か―アメリカ改憲史から考える―』が同時に出ています。

また、名著として知られる高坂正堯『世界地図の中で考える』を再刊しています。

いずれも政治学や思想史、現代社会論や国際関係論の教科書として大学の教養課程で使えるようなものです。

そして上に目次を示した『波』6月号挟み込みの選書特集では、猪木先生の本については著者ご本人と東大の宇野重規先生の対談「自由と不自由のあいだ」が、阿川先生の本については京大の待鳥聡史先生の書評「憲法はどう生かされているか」が収録されています。

関連して調べていたら、待鳥先生が共編著でこんな本を出されるということも知りました。駒村圭吾・待鳥聡史編『「憲法改正」の比較政治学』弘文堂、2016年6月29日刊行予定

さらに『波』では高坂『世界地図の中で考える』について、慶應義塾大の細谷雄一先生が力の入った論考「なぜ「悪」を取り込む必要があるのか」を寄せています。

『波』そのものは書店に置いてあれば無料でもらえますし、年間定期購読しても送料程度しかかかりません。

今月号は特にお勧めです。

なお、新潮選書が、どこかかつての中央公論の趣を漂わせているのはなぜなのか、などと思ったりもします。

猪木・阿川先生の新刊や、高坂正堯の旧著も、いずれもかつての中公叢書で出ていてもおかしくないものでしょう。

「著者インタビュー」でも少し書きましたが、出版状況が激変する中で、私は選書という媒体を学術書や教科書を流通させるメディアとして活用できるのではないかと考えています。大学の学部課程で教科書として使うのに最適な本を、選書として出して、本屋の棚に常に置かれるようにし、少しずつ着実に売って広めていくようになれば、学術の発展・維持のためのインフラにもなり、出版産業の安定にも資することと思います。