日曜日なんですからちょっとは軽いネタを。軽くないかも。
鳩山さん。「友達の友達が・・・」の人ではなく、最近クリミアに行った元首相の方ですね当然。
ロシアの宣伝放送Russia Todayは、ばっちり、一緒に行った右翼団体の人と並んだ会見を伝えています。
Ex-Japanese PM finds Crimea referendum ‘expressed real will’ of locals, Published time: March 11, 2015 10:37; Edited time: March 11, 2015 13:55
連日、ロシア政府の思い通りのことを言ってくれているのですが・・・
「鳩山元首相「クリミアの人々は自分達をロシアの一部と認識」」『ロシアNow(ロシアの声)』2015年3月11日
「鳩山由紀夫:クリミア生活、百聞は一見に如かず」『ロシアの声 ラジオ』13.03.2015, 14:13
そこで、単なる冗談ネタですが浮上したのが「パスポート取り上げ」の話。例のジャーナリストのパスポート召し上げ問題のせいで出てきた、日本ドメスティックなネタとしての「パスポート取り上げ」なのですが、国際的には日本での議論とは違うところにも焦点が当たります。
注目が集まるのは「パスポート取り上げ」よりも「ロシア移住」、その中でも特に「係争地への移住」です。
「パスポート取り上げ」のネタに敏感に反応した鳩山さんが(←注目されたいだけなんでしょ)「パスポートを取り上げられるならクリミアに移住する」と言ったとか言わないとか報じられています。これ、本人が実際に言ったかどうかわかりません。しかし、ロシア側は、「クリミア移住」と言わせたいだろうな、というのが過去の事例からは想像がつきます。いや、ロシアがどこまで鳩山案件に力を入れているのかが分かりませんが(入れていないと思いますが)、「クリミア移住」と言わされそうだな、ということをロシアのニュースに多少接している人なら思うことです。全てがから騒ぎですが・・・
「本国で問題を抱えた人がロシアのパスポートをもらって形だけ係争地に『移住』して、ロシアの宣伝に使われる」というのは最近よくあることなのです。おそらくロシア政府内にそういうプロジェクトをやる部署があるのでしょう。
代表例はジェラール・ドパルデュー。
フランスの富裕税が嫌だと言って、2013年1月にロシアに国籍を移しました。
日本語で読めるものとしては、こんなものがあります。
「国民的俳優ドパルデュー氏が国籍放棄。個人所得税13%のロシアへ移住?
この話題、西欧社会が現在抱える問題や、西欧社会とロシアの関係、西欧の問題とはまた別のロシアのトホホな実態表している、興味深いものなので紹介したいなあと思いつつ機会がなかったのでここで。西欧諸国での累進課税や租税回避の問題という本筋の話題は別に、ロシア側はこれを「国際的に非難されている紛争・係争地に西欧の有名人を誘致して正統化を図る」という独自のプロジェクトの一環で取り込んだのです。
西欧側では「税金逃れで出て行った」ことが最大の話題になりますが、ロシア側ではもちろん「無料のランチはない」わけでありまして、重要なのは、ロシアのパスポートをもらってから、ロシアのどこかに実際に住民登録をしたり、住んだふりをしてみせたりする場面です。ここでロシアは宣伝に利用するのですね。
ドパルデューはロシア連邦モルドヴィア共和国のサランスクにとりあえず住民登録をしたようなのですが、それだけでなく、チェチェン共和国のグローズヌィにも拠点を置きました。ロシアにとってはここが肝心なようです。空港にはプーチンに任命されたラムザン・カディロフ首長(2004年に父のアハマド・カディロフが暗殺されて跡を継いだ)が出迎え、鳴り物入りでドパルデュー歓迎イベントが開催され、グローズヌィ再建の目玉である高層マンションに部屋をあてがわれ、盛大に報じられています。
カディロフがマンションの鍵を手渡したり、グローズヌィで映画を撮ると発表したりしています。
ロシアの宣伝メディアでは、日本向けにも若干ですがこの話題を伝えています。英語で見ればもっと詳細に大量に見ることができます。
「ドパルデュー氏 チェチェンで映画を撮影したい」『ロシアの声 ラジオ』2013.02.25 , 18:49
「ドパルデュー氏、グローズヌィの自宅マンションを日本風に」『ロシアの声 ラジオ』2013.06. 6 , 08:16
なぜチェチェンでグローズヌィかというと、それはもちろん、1999年−2009年の第2次チェチェン紛争で、大弾圧を行って焼け野原にしたグローズヌィの再建というロシア政府のプロジェクトが「うまくいっている」と主張したいからです。
グローズヌィ再建プロジェクトの目玉は超高層マンションと、ヨーロッパ最大とかいうアハマド・カディロフ・モスクです。「ロシアはイスラーム教を支援しています!」という宣伝ですね。
なお、「アハマド・カディロフ」とはラムザン・カディロフのお父さんの名前です。ドパルデューの歓待シーンの写真にも写り込んでいますね。もちろん意図してやっているのでしょう。
また、超高層マンションの方は、2013年4月に火災で焼けてしまいました。ドパルデューのマンションか?と話題になりましたが、隣接する別のマンションに部屋を持っているとのことです。チェチェンの「復興」騒動は何かといわくつきです。
実態は、箱物だけ作っても、あまりに統治がひどいので、チェチェン人はどんどん難民として流出していると言われています。
チェチェン首長のカディロフ親子というのは、要するにチェチェンの暴力団の親玉を、住民を暴力で押さえ込む親ロシア派の頭目として任命しているわけです。
反プーチンの政治家ネムツォフ氏が暗殺された事件でも、ロシア当局が逮捕した「犯人」はチェチェン人でカディロフの元取り巻きとのことで、いかにも怪しい。チェチェン問題には、ロシアの怖いところが全部詰まっていて、ロシア人も触れたがらない。
グローズヌィ中心部の何本かのタワー・マンションとアハマド・カディロフ・モスクからなる風景は、内戦と弾圧、それを覆い隠す宣伝キャンペーンを表す不吉なものとして国際社会では見られていることを、知っておいた方がいいでしょう。
2013年はロシアにとって、チェチェン・グローズヌィの「復興」を国際的に宣伝する年だったのですね。そこで、税金逃れ亡命者もチェチェンに振り分けた。
2015年は今度はクリミアの編入既成事実化の宣伝が重点項目で、そこに引っかかったのが鳩山さんだということです。2013年だったらチェチェンに行かされていたかもしれないですね。この映像のドパルデューを鳩山さんに入れ替えて想像してみましょう。
シャルリー・エブド紙は、ウクライナ問題が勃発すると、即座に「プーチンがドパルデューをウクライナに派遣」という風刺画を掲載しています。
酔っ払っているのでウクライナ側が「化学兵器反対!」と叫んでいます。描いたのは、襲撃を辛くも逃れ、再開号の表紙にむせび泣く「ムハンマド」を描いたLuzですね。
フランスの風刺画を上から目線で云々する前に、まずこの程度の政治感覚を持った風刺画家を日本も持てるようになるべきでしょう。風刺画以前に、文章や発話でも意味のある批判ができていないのですから、難かしいですかね。
なお2013年に、ロシアのメディアは「お上」から「チェチェン・グローズヌィの復興を宣伝しろ」ときびしーくお達しを受けているのだろうな、ということに気づかされた面白いニュースを思い出したので記録しておきたい。
2013年9月のサンクトペテルブルクでのG20サミットの時でした。サミットの話題はシリア問題をどうするか、イラン核問題をどうするかで、いずれもロシアが深く関わっており、解決策というよりも問題の一部と言えるので、それらについてのプーチンの発言が注目されました。私もプーチンの記者会見に注目していたのですが、質問の一番に指名されたロシアの記者は国際社会の注目を一切スルーして、こんなこと聞きました。
Vladimir Putin’s news conference following the G20 Summit, September 6, 2013, 17:00
QUESTION: Mr Putin, with your comprehensive support and thanks to the efforts of Ramzan Kadyrov towns and villages, as well as the social sphere, have been restored in the Chechen Republic. However, there’s the issue of industry and job creation. This is an important issue.
As you are aware, the oil industry is the flagship industry of the Chechen Republic. We know that Rosneft hinders the construction of oil refineries. As President, can you facilitate restoring industry and building refineries? This is my first question.
The second question, if I may. It’s a little off topic, but I take this opportunity to …
VLADIMIR PUTIN: Do you believe the first one was on topic?
QUESTION: Yes. Unemployment and the economy… The second question is a personal request for you, Mr Putin. You are aware that during World War II the battle for the Caucasus, primarily for Grozny, was fought. Grozny along with Baku supplied raw materials. Grozny residents, along with the other peoples of Russia, fought on the fronts. All these years we were hoping that Grozny would be designated a City of Military Glory, but so far in vain.
Here’s my request and question. Mr Putin, could you please have Grozny considered in an impartial manner as a candidate to receive the honorific title of City of Military Glory. Thank you.
「プーチン様の全面的サポートのもとカディロフがチェチェンの都市と村を復興させましたが次は産業復興ですよね?」とか「ロシアの栄光の戦いの中でのグローズヌィの位置が際立っているから軍の栄光の都市に認定したらいかがでしょうとか」、質問にすらなっていない。プーチンの意を汲んで、汲みすぎて「そんなことサミットの話題になったと思ってんのかお前?(VLADIMIR PUTIN: Do you believe the first one was on topic?)」とプーチンにたしなめられたりして、というお約束のやりとりです。
こういうのを翼賛メディアというのです。さすがに、日本にはこんなメディアはありません。翼賛とか独裁とはここまでやるものなのです。自由な社会で安易に他人に「独裁」「ナチス」といったレッテル張りをしている人は、本当に自由がない状態を知らない。そういう人は実に簡単に、「大義」を振りかざして独裁者のもとに、こけつまろびつ殺到します。誰がそういう軽率であるがゆえに本当に怖い人なのか、よーく見きわめておく必要があります。
もうどうでもいいことですが、ロシアの宣伝メディアが英語で発信した鳩山ネタを貼り付けておきます。
「スプートニク」というメディアは、MIA(国際通信社)の「ロシア・トゥデイ(今日のロシア)」の設立した「国外向けの新しいメディア・プロジェクト」だそうです。ロシアにはとにかくいっぱいプロパガンダ・メディアがあります。内容は同工異曲。ロシア発の陰謀論を信じる日本の人もウェブ上には多くいらっしゃるが、やめたほうがいいです。さすがロシア文学の国ですから質も高いですし面白いですので、ネタとして享受するだけにしましょう。ペーソスや諧謔という言葉の意味を知るためにもいいかも。ロシアのプロパガンダ・メディアの諧謔っていうのは、これを読んで信じちゃう人を揶揄い、さらにそんなことを生計の活計(たつき)にしている自分自身を哀れむといったような要素も含むものです。ロシアって深いなあ。