【コメント】『毎日新聞』朝刊、米空爆シリア拡大について

今朝の朝刊ではもう一つ、『毎日新聞』にコメントが載っています。忙しくて紙面を確認する暇もなく過ごし、夕方になってやっと羽田空港ラウンジで日経、毎日の寄稿・コメントを確認。

オバマ米大統領:シリア空爆表明 池内恵・東大先端科学技術研究センター准教授(中東地域研究、イスラム政治思想)の話

ネットでも公開されていたので、張り付けておきます。

 ◇打倒は長期化

 シリアでの空爆はイスラム国の逃げ場をなくすことが目的だ。イラクで米国がイスラム国を攻撃しても彼らはシリアに避難してしまうからだ。空爆ではシリア内での勢力拡大を食い止めることができても、シリアからの排除はできないだろう。イスラム国打倒は長期化せざるを得ないだろう。イスラム国の勢力拡大はシリア北部の油田を押さえたことが大きい。シリアは混乱状態で、原油の密輸で大量の資金が手に入る。また、動画サイトなどで自らの力をアピールするイメージ戦略がうまく、イラク北部の武装勢力を吸収し、欧米からも戦闘員が集まっている。

【寄稿】本日のオバマの対イスラーム国でのシリア空爆許可演説について『フォーサイト』に事前に書いてあります

日本時間今朝10時(米東部時間9月10日夜9時)から、オバマ大統領が対イスラーム国の戦略、特にシリアへ空爆の範囲を広げる件で、注目度の高い演説を行った。【一部分の映像

オバマ910演説

事前に内容は予想できていたので、今日未明のうちに『フォーサイト』に論評を出してあった。

池内恵「オバマのシリア介入演説は米国と世界をどこに導くのか」『フォーサイト』2014年9月11日

実際の演説はやはり予想通り。一方ではレトリックでもはや「ブッシュか?」とすら思われるような表現を多用しつつ、もちろん地上軍派遣は否定し、シリアでやることは、イエメンやソマリアでやってきたことと同じ、といった説明をした。世論一般の「超大国なんだから何でも解決できるだろう」という素朴な自負心に応えつつ、保守派の切歯扼腕をなだめつつその過剰な期待を冷まし、「オバマよ、お前も戦争大統領だったのか」と逆恨みをすでに買っているリベラル派の反発を避ける方向性。

“We will hunt down terrorists who threaten our country, wherever they are”
“This is a core principle of my presidency: If you threaten America, you will find no safe haven.”

だそうです。

「どこにいても捕まえるぞ」
「アメリカを脅かす者に聖域はない」

ですね。

しかしまあ、副大統領のバイデンさんは確か先日、地獄の門まで追いかける、といったらしいし、そっちの方が「ブッシュ的」で、オバマさんはやはり上品というべきか。不良の喧嘩みたいな役割を演じる大統領ポストの一つの側面には向いてないよね。

幅広い同盟を組んで、現地の同盟者にやってもらうよ、という方面は、例えば

“This is not our fight alone”

“American power can make a decisive difference, but we cannot do for Iraqis what they must do for themselves, nor can we take the place of Arab partners in securing their region.”

目的も手段も明確で、出口戦略心配ありませんよ、は例えば下記のように。
“Our objective is clear: We will degrade and ultimately destroy ISIL through a comprehensive and sustained air strikes strategy.”

メディアに煽られて国民が、「地上戦やらないなら空爆大賛成」になってしまい(ワシントン・ポスト紙の世論調査では7割以上がイラク空爆支持、6割5分がシリアへの空爆拡大も支持)、「弱腰」「戦略ない(と自分で口滑らしたせいもあるが)」と批判されて、7日のNBCのプライム・タイムのインタビュー番組Meet the Pressで今日の演説予告をしてしまい、大々的な開戦演説みたいのをせざるを得なくなっていたオバマ大統領。まあもともとメディアを使って風を起こして大統領になった人だから仕方がないともいえるが。

直前に演説の内容をほとんどメディアに配ってしまったりして、「大演説」「大戦略」への期待値を下げるメディアコントロールをしたようだ。

どうしようもない状況に手をこまねいていると「戦略ない」「立場分かってんのか」と罵られるが、やると言えば「もっとやれ」と右派に煽られ、しかし「出口戦略はあるのか」と問い詰められでも現地に頼れる同盟者がいないじゃないか実際の現地の同盟者はイランになってしまっているけどそのことは今は言っちゃまずいよねうふふとか書かれても、みんな本当だってことはオバマ大統領はもちろんわかっているだろうけど、黙って耐えるしかない。アメリカ大統領もつらいよのう。

『フォーサイト』の連載では、雑誌のタイトルも意識して、重要なことについて事前に書いて、逆にあまりフォローアップはしない。起こった後にはいくらでも報道されるからね・・・と思ったら日本語ではあまり報じられなかったりする。事前の解説も事後のまとめもやれ、などという読者がいたとしても、購読料(とそれに基づく原稿料)を考えたら、絶対無理と分かってくださいませ。ボランティアでやっているようなものですから。

しかしこのブログでは時間ができたら経緯や詳細についての続報など、やってみるかもしれない。

【寄稿】「イスラーム国」の衝撃──『中央公論』10月号

イスタンブルから帰国して以来、あまりに忙しくて更新できないでいた。「中東の地政学的リスクの増大」についての関心が高まり、セミナーやレクチャーに駆け回っている。その間にも仰せつかっている各種報告書の執筆が相次ぎ、論文や著書の執筆が滞っている。危機的である。

それでも一つ成果が出た。9月10日発売の『中央公論』10月号に、イラクとシリアでの「イスラーム国」の伸長の背景と意味を論じた、長めの論稿を寄稿しました。

池内恵「「イスラーム国」の衝撃──中東の「分水嶺」と「カリフ制国家」の夢」『中央公論』2014年10月号(9月10日発売)、第129巻10号・通巻1571号、112-117頁

中央公論2014年10月号

本日は差し迫った仕事があるので、解説などを書く余裕がありません。包括的に書いてあるので、手に取ってみてください。