トルコ政治の今後の展開は中東情勢の軸になる

先月のトルコの大統領選挙について、選挙直前にNHKBS1の『国際報道2014』で行った解説の全文おこしがNHKのホームページに掲載されているようです。

「世界が注視 トルコ「エルドアン大統領」誕生か」NHKBS1『国際報道2014』2014年8月8日(金)

解説トルコ大統領選挙とエルドアンNHKBS1

私の校閲は受けていない、つまりテレビでしゃべったところが言い間違いなども含めて全部載っているはずですが、しかし「てにおは」などは実際に喋ったものよりも過剰に口語的(幼稚に?)なっていたりする。急いでいて私が言い間違えている部分もあるだろうが、あきらかに違うところもある。つまりテープおこしをした人が、そのような間違った「てにおは」や言葉遣いをしているから、書き起こし文に反映されてしまっているように見える。これはこの番組ホームページの全文おこし全体に、他の回についても共通する特徴なので、どういう会社がテープおこしを請け負ってどういう手順で文章作成をしているのかが気になる。

ただし発言の実質的内容自体はしゃべったままなので、内容には私が責任を負っています。また、これは選挙前の分析だが、基本的に選挙後の分析としてもまったく同じことを言うだろう。

(なお、アナウンサーが読み上げた部分で、「トルコでは首相は3期までしか認められていない」というのは間違いで、与党AKP(公正発展党)が党首の任期を連続3期までと制限しているだけです。エルドアンの人気と実力から言えば、AKPの党規を改正して首相になることも可能だったはず。それをせずに、党首の地位は名目上離れ、現状では憲法上は権限は名誉職的なものにとどまるはずの大統領職に就任して、与党の圧倒的多数も来年の議会選挙で確保して憲法改正して大統領権限を強化してより思い通りの統治をしようとしているところに、危うさを感じて批判する勢力がいるのです)

選挙結果そのものの分析としては、このブログの次の項を参照してください。
「トルコ大統領選挙は地域間格差による明瞭な結果が出た」(2014/08/11)

また、「エルドアンの強化された大統領への道」は、今年3月末の統一地方選挙の際に明らかになっていたので、その時にすでに全体の方向性は『フォーサイト』に書いてあります。基本的にこの時書いたことが、私が知っている限りのトルコ政治の趨勢で、統一地方選挙、大統領選挙まではその当時に想定されたシナリオ通りに進んでいると言えます。


「エルドアン首相はトルコの「中興の祖」となれるか」『フォーサイト』2014年3月19日

ブログでも関連記事を紹介しておきました。
「トルコの3・30地方選挙がエルドアン政権の将来を左右する」(2014/03/19)

この先、来年の議会選挙で3分の2の議席をAKPあるいは連立で確保して、大統領権限を憲法上も明確に定義する改正を行えるか、首相に繰り上がったダウトウルなどとの関係がうまくいくか、経済や外交などの難問が降りかかってくる中でAKPとエルドアンへの支持が続くか、などが課題です。

また、トルコ政治は単にトルコにとって重要なだけではありません。イラクやシリアの「イスラーム国家」への対策で実際に実効性のある対策を取りうる数少ない主体であるとか、ガザをめぐる紛争でもイスラエルとハマースの両方にレバレッジを持っているほぼ唯一の国であるとか、重要な役割や拒否権を持っているので、だからこそ内政に注目しています。

そのあたりは、NHKBS1での解説の最後の方でも急いで短く話してあります。

「・・・トルコは依然として中東の安定をもたらすのに不可欠な国なんですね。
この地図を見ても分かりますけど、不安定なシリア、それからイラク、いずれも国境を接していて、直接、経済的に、あるいは安全保障面で安定化のために影響力を行使できる国っていうのは、やはりトルコしかないんですね。」

「中東の不安定な諸国のいろんな問題について、いずれもトルコを抜きにしては解決できないというのは現状なんですね。」

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それはそうとして、テレビの報道や発言の全文おこしをホームページに公開することは重要。日本はテレビ局の報道や、そこに出る解説者の発言が活字で残らないので、非常に無責任になっており、議論が生産的にならない構造がある。テレビがあいまいな表現や印象操作で世論を方向づけてしまったり、特派員経験者だと称するテレビ・新聞記者上がりの基本的に無知な解説委員が荒唐無稽な海外事情解説をしていたり、テレビに出られるというと知りもしないテーマについてまで訳知り顔で話して学者の発言が、日本の世論や常識を作ってしまっている面がある。主要なニュース番組の特集などは全て活字にして公開しておく、そうでない番組は信用されない、というようになれば、これは変わるはずだ。