10日間ほど、アラブ首長国連邦で資料収集に没頭していましたので、ブログの更新が減っていました。
ちょうど帰国したところです。
現地調査は、次の次の次ぐらいに取り組んで成果を出す課題について、今のうちに見て、考えて、調べるために行うものですから、すぐにどうだったこうだったとブログに書くことはありません。ただいま資料を整理し、消化中です。
合間に手早く撮った写真などは、以前チュニジアについて試してみましたが、ブログの素材として用いるかもしれません。それはまた時間が出来た時に。あくまでも副産物ですので、調査の本体は論文や本になります。
短い現地滞在中に、国際的に大きなニュースとなった事件が相次ぎました。日本ではそれほど報じられていないかもしれませんが、中東、西欧、米国のメディアでは今でも事件後の状況を注目して見ています(並行してギリシアのデフォールト問題のカウントダウンで盛り上がっていますが)。
6月26日(金) クウェートのシーア派モスクへの自爆テロ、チュニジア・スースのビーチ・ホテル襲撃、フランス・リヨン近郊の化学工場への襲撃
6月29日(月) エジプト・カイロ郊外ヘリオポリスで検事総長が爆殺される
7月1日(水) エジプト・カイロ郊外10月6日市でムスリム同胞団の幹部ら13名を治安部隊が殺害
エジプト・シナイ半島北部シャイフ・ズワイドで「イスラーム国」の「シナイ州」を名乗る勢力がエジプト軍の拠点複数を一斉に攻撃、エジプト軍と交戦
ただし、これらに並行して、イエメン内戦とリビア内戦が激しく続いており、私がいたアラブ首長国連邦を含むアラブ湾岸産油国(GCC)はこの二つの内戦に深く関与しているため、それらは上記のテロと同様に注目されていました。
「イスラーム国」のプロパガンダに影響されたとみられる、クウェートのシーア派モスクへの攻撃は、宗派紛争を惹起しGCC諸国の社会・政治を内側から揺るがす可能性があるため、連動・連鎖反応ががあると危機的です。
イラク南部からクウェート、バーレーン、サウジアラビア東部にかけてのシーア派が多く住み、巨大な油田を抱える地帯に混乱を及ぼすことを全力で防ぐのが、ペルシア湾岸のアラブ産油国(GCC)の共通の安全保障上の課題として、大きく見えてきています。
今回の渡航先を選ぶ際には、クウェートとチュニジアを真剣に検討した上で、リスク懸念からやめておきました。2月に行ったチュニジアにもう一度行って、リビアの内戦からの波及の程度を見てみたいと思っていましたが、「イスラーム国」がチュニジアの安定を揺さぶる宣伝を行い、チュニジア国内に呼応する勢力が曖昧ながら存在する以上、滞在中の安全確保が万全にできないと判断して見送りました。クウェートとバーレーンの宗派間関係も見ておきたかったのですが、5月にサウジ東部で相次いだシーア派モスクへのテロ以後は、標的がクウェートにも拡大する可能性があったため、これも回避しました。
もちろんイラクやシリアは論外です。
エジプトについては、広い国ですから、滞在中にどこかでテロや辺境での衝突があっても直接に被害を受ける可能性は低いですが、以前よりも爆破の起きる場所が多様化しているため、安全の確保に確証が持てません。特に・軍・警察関連の施設とその周辺は危険を伴います。6月30日から7月3日にかけての、2013年のクーデタ関連の象徴的な日付には局地的・突発的な騒乱状態が予想されたため、安全上の制約から自由に動き回ることができないのであれば成果も得られにくいとみてエジプトもまた渡航を回避しました。
しかしこうしてみると、アラブ諸国で行けるところがどんどんなくなってしまいますね。
現状ではアラブ首長国連邦とオマーンとモロッコが、残された数少ない安心できる場所といえるでしょうか。ヨルダンは目立ったテロ事件は最近起きていませんが、台風の目の中に入ると風が止む、といった状態です。
外国人労働者の方が居住者の多数を占めるこの国は、国家というよりは多国籍企業やグローバル・シティとして捉えた方が良いこともあります。しかし近年に、シリアやイエメンやリビアに直接の軍事介入をするなど、従来とは違う、国際政治・安全保障上の存在感を増しています。それがどれだけ実体を伴ったものなのか、持続可能なのか、追っていろいろ考えてみましょう。