ブリタニカ国際年鑑2019年版「イスラム教」の項を執筆

今年もこの季節が巡って参りました。

2019年版『ブリタニカ国際年鑑』の「イスラム教」の項目を執筆しました。

池内恵「イスラム教」『ブリタニカ国際年鑑』2019年版、ブリタニカ・ジャパン、190−191頁

例年通り、イスラーム教とイスラーム世界の動向について三つの注目すべきトピックを選定して総説しました。

今年選んだのは

「ジハード主義の拡散」

「中国のムスリム弾圧への国際的非難」

「日本の外国人労働者」

でした。

年に一度、「忘れた頃」に依頼が来るブリタニカ国際年鑑の執筆依頼は、たいてい年末年始のとてつもなく忙しい時期に締め切りが重なり、毎回非常に苦労する(編集者を苦労させる)のですが、なんとかかんとか、2014年版以来、6年連続で寄稿できています。

結果として、年に一度、世界と日本のイスラーム教をめぐる状況をまとめてみる機会になっています。

今年は、(執筆時より後に起きた事象ですが)スリランカのテロに見られるように、イラクとシリアでの領域支配の領域は失った「イスラーム国」が、アルカーイダ系の組織などと競って、イスラーム世界の周辺領域にイデオロギーによる浸透を進めている点(「ジハード主義の拡散」)をまず取り上げました。これは以前からの「引き継ぎ事項」とも言えますが、それに加えて新しい動きとして、米中関係の緊迫化の中で政治的に問題化される傾向が出てきたウイグル人問題や(「中国のムスリム弾圧への国際的非難」)、日本の移民・労働法制の変化によって生じうる「内なるイスラーム問題」にも目を向けることになりました(「日本の外国人労働者」)。

着実に時代の変化がイスラーム教をめぐる環境にも及んでいます。

ご参考までに、これまでの各年に選んできたトピックを下記に再掲します。

「イスラーム国」がイラクとシリアで領域支配を行って台頭する直前から、その甚大な影響・波及が国際政治に及んでいく時期を経て、イスラーム主義のイデオロギーが根深く各地に浸透する時代へと、各年の執筆項目が、まるで年代記を刻んでいくようです。

2018年版
「イスラム国支配の終焉と小規模テロの拡散」
「トランプ政権のムスリム入国禁止と法廷闘争」
「啓蒙専制君主による改革の呼号」

2017年版
「グローバル・ジハード現象の拡散」
「反イスラム感情とトランプ当選」
「イスラム教は例外か」

2016年版
「『イスラム国』による日本人人質殺害事件」
「グローバル・ジハードの理念に呼応したテロの拡散」
「イスラム教とテロとの関係」

2015年版
「『イスラム国』による領域支配」
「ローンウルフ型テロの続発」
「日本人イスラム国渡航計画事件」

2014年版
「アルジェリア人質事件」
「ボストン・マラソン爆破テロ事件」
「『開放された戦線』の拡大」