【寄稿】週刊エコノミストの読書日記は『小泉今日子書評集』

本日発売の『週刊エコノミスト』の読書欄、5回に一度回ってくる連載読書日記では、小泉今日子さんが出版した書評集を取り上げています。

池内恵「新聞書評の制度が生んだ小泉今日子という書き手」『週刊エコノミスト』2015年12月22日号(12月14日発売)、77頁

取り上げたのはこの本です。


『小泉今日子書評集』

詳しくは『週刊エコノミスト』を買って読んでいただきたいのですが(いつもどおり、電子版には収録されていません)、今回はこの本を手に取ったきっかけについて多くを記しています。


『エコノミスト』2015年12/22号

読売新聞の(他の新聞もそうですが)日曜日には、ページを何度もめくっていった真ん中の方のページに書評欄があります。ここで取り上げる本を選び、書評を書く「読書委員」を、小泉さんが2005年から10年ほど務めて、そこで書いた書評を集めたのがこの本なのです。実は私も2004年から2年間、読書委員を務めたので、小泉さんが読書委員になって書評を始めた最初の一年間、ご一緒しました。

その頃から読売新聞の文化部は、読書欄、中でも読書委員制度にかなり力を入れていて、小泉さんのような異例の書き手を発掘したり、読書委員の会議を充実させて、終わった後も懇談会・二次会・三次会までやっていました。そんなところにも当時の小泉さんは律儀に顔を出してくれました。私は遠まきにしてみていましたが、喜色満面で隣の席をゲットして関西弁で喋りまくる某著名教育社会学者などの話相手も、小泉さんは自然にこなしておられました。その頃は少し時間に余裕がある時代だったのかな・・・

その後いろいろな活動で繰り返し話題になりましたが、やはり「あまちゃん」で私でも見るような当たり役を演じたのは長く記憶に残ることでしょう。

私の方は、読書委員の通常の二年の任期の二年目で、やっと慣れた頃でしたが、まだ30歳そこそこで研究者として書評をやるには非常に若かったので、毎回緊張して会議に臨んでいました。二年間で大量に書いた書評は、他の読書エッセーと一緒に、2006年には『書物の運命』(文藝春秋)として刊行しました。この本で翌年に第5回毎日書評賞までいただいてしまいました。機会を与えてくれた読売新聞社文化部には感謝の気持ちでいっぱいです。

その当時、小泉さんの書いた書評が載っているのを目にしても、一本単位では、あるいは取り上げられている小説などを読んでみる時間もなかったからか、それほどピンとこなかったのですが、小泉さんが特別に10年間も読書委員を続けて、書いてきた97の書評時系列に並べて読んでみると、一つの時代の世相とその映り行きが、浮かび上がってきて、なんとも言えず良いですね。

やはり、時代を映してきた女優さんの感性は鋭い。文章が上手いとか下手とかいう話ではないのですね。

取り上げられた作品と、それについての小泉さんの反応を読んでいると、振り返って思い出すこともあり、また、新たな発見も多くありました。

そして、読売新聞の文化部が読書欄に力を入れて、読書委員会という制度を最大限使いこなして、小泉さんという書き手を押し出したことの価値がよく分かる本でもあります。メディアは文化を消費するのではなく、作る、のですね。

この本の末尾には、読売文化部の小泉さん担当の記者(村田さん)が、読書委員会の思い出や観察を聞いているインタビューが掲載されていて、これだけでも非常に面白いのですが、回想されるのは主に1年目の、私も読書委員会にいた頃のことが大半です。やはり小泉さんにとっても、読書委員になった最初の一年の印象が鮮烈なのでしょうか。

当時の裏話などが思い出されてきて、個人的にも大いに楽しめました。

軽く読めるこの書評集ですが、時代を映すデータ集としても、色々と示唆的なのではないでしょうか。そんなわけで熟読してみました。

10年間の、時代の写し絵として、「『小泉今日子書評集』を読む」を近くブログ連載しますので、乞うご期待。

無粋なやり方ですが、統計数値を出すように数えてみるとなかなか面白い。例えば、書評でしょっちゅう、小泉さんが「私は泣いた」というところがあるのですが、それでは小泉さんは10年間で何回泣いたのでしょうか?ブログで取り上げると思いますが、皆さんも是非数えてみては。

女性の作家を取り上げていることが多い気がするのですが、取り上げられる本の著者の男女比はどれぐらいか、とか、数えると面白い傾向が見えてきます。何回泣いたか、女性作家の割合はどれだけかなどは、そのうちまたブログで書くとして、あらかじめ記しておくと、男性作家からは、勇気をもらったり爽快な気分になったりしても、泣いてはいないようですね。やはり共感のツボが違うようです。