【地図】リビア東部ダルナで「イスラーム国」が別のジハード組織によって掃討される

リビアの東部ダルナ(デルナ)で、7月30日、イスラーム系武装勢力「ムジャーヒディーン・シューラー評議会」が、「イスラーム国」勢力を、町の主要部から放逐したとのニュースが入りました。

“Libya officials: Jihadis driving IS from eastern stronghold,” Associated Press, 30 June 2015.

ダルナは元々宗教保守派が強い町ですが、そこに昨年10月「イスラーム国」に地元で呼応する勢力、あるいはイラク・シリアの「イスラーム国」から帰還した勢力などが勢力を増して、「イスラーム国」の支配を確立したと宣言していました。

これに対して、内戦を繰り広げるリビアの武装勢力の一翼をなすイスラーム系武装勢力の動向が注目されてきました。要するに彼らが「イスラーム国」に相乗りして鞍替えしてしまえば、リビアにも「イスラーム国」の領域支配が広がりかねない、ということです。

実際に呼応する勢力は現れて、例えば中部のスルト(スィルト)では「イスラーム国」が活動を活発化させています。しかし「イスラーム国」に対抗するイスラーム系武装勢力の勢力も強く、昨年12月にはアル=カーイダ系の「リビア・イスラーム闘争集団(The Libyan Islamic Fighting Group: LIFG)にかつて加わっていた人物を中心に、ダルナの「アンサール・シャリーア」なども加わって、「ダルナ・ムジャーヒデイーン・シューラー評議会」が結成され、「イスラーム国」に対峙するようになりました。この集団はダルナで優勢に立ち、今年の6月半ば以降、ダルナから「イスラーム国」勢力を追い出しかけています。今回、さらに「イスラーム国」から勢力範囲を奪還したとのことです。

『ニューヨーク・タイムズ』紙がつくってくれた、リビアでの「イスラーム国」の広がり具合の地図。ダルナでの「イスラーム国」を名乗る勢力の劣勢についても記されています。

リビアのイスラーム国NYT_June31_2015Where ISIS is gaining ground in Libya
“Where ISIS Is Gaining Ground in Libya,” The New York Times, Updated June 30, 2015.

【関連記事】
“Western Officials Alarmed as ISIS Expands Territory in Libya,” The New York Times, May 31, 2015.

しかし、「イスラーム国」が駆逐されても、イスラーム法(シャリーア)の施行を掲げるムジャーヒディーン・シューラー評議会が、同様の支配をしないとも限りません。

ちなみに、上記のAPの記事では、それほど親切ではありませんが、単に「イスラーム国」系と非「イスラーム国」系のイスラーム系武装勢力同士が戦っているだけではない、全体構図の一端を伝えてくれています。

例えばこの部分。

Forces loyal to the internationally recognized government based in Libya’s east have meanwhile surrounded Darna and were moving in on it from the south, seeking to drive out all of the jihadis, military officials said.

ダルナのムジャーヒディーン・シューラー評議会がダルナの中心部で「イスラーム国」系勢力を掃討している間に、もう一つの軍勢がダルナをさらに外から包囲していて、南部から侵攻してムジャーヒディーン・シューラー評議会と「イスラーム国」をもろともに掃討しようとしているのですね。なんでしょうかこれは。

その軍勢は「国際的に承認された政府」の国軍であるという。

「internationally recognized government」というのは、東部のトブルク、あるいはバイダー(ベイダ)を拠点とする、2014年6月の選挙で選出された議会を正統性の根拠とする政権を指します。特にエジプトや、UAEやサウジアラビアなど湾岸産油国に支援され、国連や欧米諸国の政府に支持されています。エジプトに支持されたハフタル将軍を3月には国軍最高司令官に任命し、「リビアの尊厳」を旗印に諸勢力を糾合して失地挽回を図っています。

それに対して、西部にある首都トリポリを押さえた政権は、それ2012年7月の選挙結果を受けて召集された国民総会議(GNC)をまだ有効と主張し、西部を中心に国土の大きな部分を統治しつづけています。

各地のイスラーム系武装勢力の多くは、トリポリのGNCと連合して「リビアの夜明け」を旗印に立てた民兵集団を形作っています。ダルナのムジャーヒディーン・シューラー評議会もこの系統で、「イスラーム国」だけでなく東部トブルク政権の国軍やそれと連合する武装勢力と戦ってきました。

というわけで、東部の支配を固めたいトブルク政権系の軍がダルナを包囲している最中に、ダルナの中では、どちらかといえば西部トリポリ政権に近いイスラーム系武装勢力が「イスラーム国」と戦うという、入れ子状のややこしい状況になっています。

東部の中心都市ベンガジでは、トブルク政権の軍が「イスラーム国」の掃討作戦を行っているようです。

リビアの分裂政府と内戦の展開を、初歩的なところから教えてくれる概要は、例えばEconomistのこの記事。地図もあります。

“Libya’s civil war: That it should come to this,” The Economist, 10 January 2015.

リビア地図Economist_Jan10 2015that is should come to this