2014年6月からこの年の暮れまではもっぱら「イスラーム国」がイラクとシリアで勢力を拡大し固める方向で進んだこと、その結果としての2015年5月当時の勢力範囲をここまでに示してきました。
2015年を通じて「イスラーム国」に対する様々な主体による軍事行動が行われた結果、勢力範囲が縮小に転じました。これについては、軍事情報誌Jane’sを発行するIHSが取りまとめて2015年12月21日に発表した地図が、各紙で転載・参照されています。
この地図は、専門家はIHSのウェブサイトで直接見て、その後、日本の報道関係者などには、インディペンデントなどの記事で解説されたことで徐々に伝わり、年明けごろに広まっていった記憶があります。
“Islamic State’s Caliphate Shrinks by 14 Percent in 2015,” IHS Newsroom, December 21, 2015.
このように、IHSは「イスラーム国」が2015年の間に失った領域と得た領域を差し引きすると、14%縮減したと結論づけました。赤いところが失った領域ですね。
ここから「イスラーム国」の「退潮傾向」の論調が定着しました。それが本当に事実かどうかは別にして、そのような流れが報道の中では定まったということです。言ってみれば、「イスラーム国」は勝っていない、という情報戦が、このあたりから明確に機能し始めたということでもあります。
IHSの地図を参照した記事としては例えば以下のものがあります。
“ISIS’ Territory Shrank in Syria and Iraq This Year” The New York Times, December 22, 2015.
“How the war on Isis is redrawing the map of the Middle East,” Independent, 4 January 2016.
IHSは2016年3月には追加の取りまとめ結果を発表し、2016年1月から3月にさらに「イスラーム国」の勢力範囲は縮小し、前年度と合わせて、最大版図に比べて22%縮減したと結論づけています。赤で記された失った領域が広がっているのがわかると思います。そして、失った領域を誰が取っているかが、新たな政治問題になっていくのです。
“Islamic State loses 22 per cent of territory,” IHS Jane’s 360, 16 March 2016.
このシリーズは毎日地図一枚に限定するという趣向ですが、今回に限りもう一枚貼っておきますので、「間違い探し」をしてみましょう。