【寄稿】安全保障貿易情報センターの『CISTECジャーナル』にトランプ時代の中東について

寄稿しました。

一般財団法人安全保障貿易情報センターの『CISTECジャーナル』3月号に、トランプ時代の中東国際秩序について、大まかな見取り図を記してみました。

池内恵「トランプ政権と中東秩序の再編」『CISTECジャーナル』2018年3月号・通巻174号, 111-116頁

ウェブからも読めますが、会員企業のみ、と思われます。

私の論考はともかく、輸出規制に引っかかりそうな品目と相手国との貿易をされている方は、ぜひ入会をご検討ください(ここでは冗談ですが、真面目な話でもあります)。

安全保障貿易情報センターは、3月17日に研究大会に招聘いただいた、日本安全保障貿易学会の事務局になっており、この『CISTECジャーナル』への寄稿も、学会発表の論文の事前草稿のようなつもりで起稿しました。こういった機会に刺激を受けて、少しずつ考えを深めていきます。

3月17日の研究大会では、第1セッションの「日本の安全保障貿易管理の30年」も聴講させていただいたのですが、安全保障貿易管理について政治・制度・学術研究の三つの方面から、発端と発展の経緯を、その道の大家が振り返ってくださる、門外漢にとって非常に蒙を啓かされるものでした。自分の専門分野の成果を持ち寄り、代わりにこういった別の分野の深い専門知識を持った方々から知見を分けてもらえるこのような機会に、学問をやっていてよかったと思います。

【寄稿】ウィルソン・センターのアラムナイ・ページにコメントが掲載

2009年に研究員として滞在したワシントンDC のウッドロー・ウィルソン国際学術センター(Woodrow Wilson International Center for Scholars)が最近立ち上げた、元研究員の同窓会ネットワーク(Alumni Network)の ブログ(Alumni Spotlight)に、コメントが掲載されていました。

“Satoshi Ikeuchi: Impact of the Islamic State and Global Jihadism,” Alumni Spotlight, October 23, 2017. 

2009年後半にウッドロー・ウィルソン・センターに所属して、支給される滞在費(月額を日本円にすると、これまで給料としてもらったことがないような結構な額なのですが)の大部分を費やして、ど真ん中、議会図書館と最高裁判所の裏に陣取り、ワシントンの政策決定の動き方、政策のアイデア競争を支えるシンクタンクとその背後の党派や資金源などをつぶさに観察する機会がありました。

ウィルソン・センターは50周年。大学ともシンクタンクとも違う、米国の政治と学術をつなぐ、類似したもののない独特の制度として定着しています。

2009年の滞在時の経験は、2011年初頭に勃発した「アラブの春」、その後の民主化の試みやムスリム同胞団の台頭、そして「イスラーム国」の出現などに際して、中東の現地の動きだけでなく、米国の反応をよりいっそう仔細に見極めなければならなくなった時に、大いに役に立ちました。「米国の中東・イスラーム政策」が、私のその後の継続的な研究テーマにもなっています。ある程度ながくやっていると、私があるテーマに取り組んで何かをするというよりは、テーマの方が私のことを助けてくれるような、そんな気になることがあります。

2007年だったでしょうか、私を米国に呼びたいとおっしゃる方、お世話してくださる方がいて、いろいろ工夫していただいたことで、ニューヨークとワシントンDCをかなりゆったり回って見聞を深め、ワシントンDCではジョンズ・ホプキンスのSAISに短期間ですが籍を置いたことにしてもらって調査して発表したり、大使館から、DCの学生たちまでの、さまざまな人たちに会うこともできました。

その後、2009年の夏いっぱいを、これまたどなたかが推薦してくださったようで、米国のアスペン研究所(The Aspen Institute)の年に一度の大きなイベントであるAspen Ideas FestivalSocrates Program Seminarに、若い学者・実務家の卵が推薦されて来るAspen Ideas Festival Scholarとして招待していただいて(今どういうプログラムになっているか知りませんが、当時は、ビジネスクラスのチケットが送られてきて、ホテルも会場の一番いいところに用意されていて、高額の参加費は全額免除、義務は、スカラーのリストプロフィールがプログラムに記載され、名札に小さくスカラーと書かれて、会場の好きなところをウロウロしていていろいろなセッションを傍聴して積極的に発言し、議論をふっかけて来る参加者がいたら相手する、という感じのものだったので、最高に恵まれていましたね)、政治家・官僚・学者・ジャーナリストが非公式に意見をすり合わせるための場の設定について、体感したことも、ウィルソン・センターでの調査に先立つ、目を開かせる体験であり、アメリカでの公的な議論の仕方に馴染むための、絶好のイントロダクションとなりました。

ウィルソン・センターやアスペン研究所やSAISなどへの訪問・在籍の機会は、ほとんど(あるいは全く)会ったこともない方々の推薦や尽力があって実現してきたものでした。「池内は中東だけではなく米国もやるといい」という、かなり多くの人たちの後押し、導きがあって、米国の最良の部分に触れられたことは、私の研究にいろいろな形で影響を及ぼしています。

それらの経験を栄養として成果を出し、世の中一般に向けて発表することが、どこかで私の仕事に目を留めてくださって、機会を与えようと取り計らってくださった方々への恩返しと考えています。

【今日の一枚】(3)リビアの分裂状況(その1)沿岸部(2016年2月)

今日の地図。リビアの分裂状況。

リビアの複数の「議会」に基づく複数の政府や、国連の支援の下での挙国一致政府の拠点、また様々な民兵集団の群雄割拠については、いろいろな地図がある。その中で「イスラーム国」がどこにどのように出てきているのかなども報道機関が地図による表現を競うポイントだ。

ここではBBCが今年2月初頭に出していたものをメモ的に転載しておこう。何がどうなっているかは自分で読んで調べてみてください。

リビア全土での勢力分布については別の地図をBBCは掲げてきたが、ここでは内陸部のあまり人が住んでいないところは除外し、沿岸部のみ塗り分けている。これも一つの見識ですね。

地図が載っていた記事本体の内容はあまり気分がいいものではないが。

BBC Libya competing groups January 2016
“Control and crucifixions: Life in Libya under IS,” BBC, 3 February 2016.

イスラーム法学の政治・軍事に関する規定の入門書(2)

ジハード主義者はどんなものをイメージしてジハードをやるのか。

それはもう、これに決まってます。イブン・イスハークの預言者ムハンマド伝。ハディースに基づき、預言者ムハンマドの生涯を物語った正統的なムハンマド伝です。ムハンマドの生涯がジハードの連続であったことが分かります。

イスラーム法学の解釈とは、コーランの章句を、預言者ムハンマドが実際にどういう場面で神から伝え、それについてムハンマドが何をやって何を言ったかを、踏まえて解釈し規範を導きだします。預言者ムハンマド伝に見られるような正統的な歴史解釈はイスラーム法学解釈の基礎の基礎です。


預言者ムハンマド伝(1)(イスラーム原典叢書)岩波書店

これを原型に、近・現代にも無数のムハンマド伝が、絵本とか映画などのあらゆる形で作られています。

アラビア語では、アラブ世界のどこでも、小さな本屋の店頭にも必ずと言っていいほど売っています。特にモスクの近くの本屋では確実ですね。

日本語訳は丹念に注をつけて、4巻本になっておりますし、高額です。部数が少ないからですね。英語ではもっと安く手に入ります。宣教用の英語訳も、様々なダイジェスト版も多く出版されていますので、今現在もアラブ世界の外でも標準的なムハンマド伝として読まれています

ジハードと聞いてイスラーム教徒が何を思い浮かべるか。第一にそれはまさにムハンマド自身が行ったジハードそのものの事績です。

第1巻はなかなかムハンマドが出てきませんが、大きくなって啓示を受けて宣教を始めるまで進みます。第2巻・3巻となるとこれはもうずっとジハードやってます。

もしかすると2・3巻は版元品切れかもしれないので、アマゾンや各書店の棚の在庫を買えるうちに買っておいたほうがいいかな。こういうものは永遠の古典なので長持ちします。

内容が日本の宗教認識や一般的に流布されたイスラーム認識をはるかに超越したものなので、文庫になるのも難しいと思います。一般的に言って、日本の通常の価値観からはかなり抵抗を乗り越えて読まなければならない部分を多く含みます。


預言者ムハンマド伝(2)(イスラーム原典叢書)岩波書店

第2巻、メディナへの移住(ヒジュラ)直後から。政治共同体の支配者側に立ち、異教徒とのジハードが始まる。


預言者ムハンマド伝(3)(イスラーム原典叢書)岩波書店

クライマックスは第3巻。異教徒と決裂し、徹底的な戦争へと進む。メッカの征服。その後の討伐戦。臨場感がある。ムハンマドは病で床につく寸前まで遠征の指示を出し続ける。

第4巻はイブン・イスハークによる原著にイブン・ヒシャームがつけた注釈と、訳者による注や解説です。これは勉強するには役立ちます。


預言者ムハンマド伝(4)(イスラーム原典叢書)岩波書店

【テレビ出演】「クローズアップ現代」(11月16日)での発言がNHKウェブサイトに

昨日出演した「NHKクローズアップ現代」の内容が、活字と静止画像でNHKのウェブサイトに掲載されました。

「NHKクローズアップ現代 No. 3733 緊急報告 パリ“同時テロ”の衝撃」2015年11月16日

私の発言も、詳細に確認してはいませんが、スタジオで生で発言した通りに文字起こしされているはずです。一部、「領域支配」と言ったはずが「領地支配」に変換されていたりします。そう聞こえるのかもしれませんが、そうは意図して発言していません。若干精度の荒い記録とお考えください。

いずれにせよ、このような文字起こしを公開し残しておくことは、信頼性のある報道番組であろうとするならば必須の条件と言っていいと思います。

発言時間は国やキャスターとのやりとりを含めて8分程度しかありませんので、事前の打ち合わせではもっと多くの論点を入れようと準備しましたが、実際にやってみると入らない部分もありました。

ただ、組織原理や戦略目標が変わったのではなく、従来のグローバル・ジハードの各地の分散型・自発的テロの多くの種類を組み合わせ、「冷酷さ」と手際良さにおいて「進化」したという論点はじっくり議論できたように思います。

何がこの「冷酷さ」をもたらしたかは、今後検討しなければなりませんが、渡航してイラクやシリアでの戦闘に関わったり、あるいはそこからもたらされる残酷な情報に触れることで、麻痺してしまったのかもしれません。

【テレビ出演】NHK「クローズアップ現代」でパリのテロについて(今夜再放送があります)

忙しくて、また急だったので、通知すらできませんでしたが、NHK「クローズアップ現代」(午後7時30分〜7時56分)に出演しました。

「NHKクローズアップ現代No. 3733 緊急報告 パリ“同時テロ”の衝撃」2015年11月16日(月)

クロ現2015年11月16日パリ同時多発テロ1

再放送は今夜日付が変わって17日(火)午前1時00分〜1時26分です。

「拡大と拡散」について噛み砕いて話すことができました。元来が持続が困難な難民・移民政策の変更のきっかけ、言い訳となる可能性や、軍事行動による拠点の「拡大」阻止が、少なくとも短期的には「拡散」を促進する可能性についても話してあります。

今回が「組織的」であるかというと、これまでより高度になって、「冷酷さ」において進歩し(その原因が何なのかまでは語れませんでしたが)、手際が良くなったといった論点も入れておきました。

しばし現地調査で脳内リニューアル中。ニュースのリツイートでもどうぞ

中東某国に来ております。

いろいろと課題や締め切りを抱えながら移動中。

今取り組んでいるプロジェクトの調査をしながら、書いている原稿を進め、次の課題、その次の課題、そのまた次の課題の仕込みを並行して行っている、というような具合でしょうか。

やはり現地時間で現地の空気の中で生活していると、活性化します。現地時間に時計をリセットするたびに、中東研究者としてのOSがアップデートし更新されていくような気がいたします。

先週からイスラーム教の断食月のラマダーン月が始まっており、日中はほとんど物事が動かず、多くの店が終日締まっております。しかも酷暑ということで、観光には全く向かないシーズンですが、研究上はいろいろと発見したり考えることが多い有益な時間を過ごしています(滞在費が安く上がるのもいい)。

インターネットで世界中からどんな人が見ているかわからないので、中東に来ていても、ブログやフェイスブックではリアルタイムに書かないことが多くあり、全く書かないことも多いです。

ただ、移動しながらWiFiをつないでニュースを読む時間が増えますので、このブログの右側の窓に表示される@chutoislam でのリツイートが普段より増えるかもしれません。

あと、今見聞きしていることとは一見直接関係のない(深いところで研究上は繋がっている)、読んでいる本についてなども書いてみましょうか。

新書で資源・エネルギー問題を読むなら

エネルギーアナリストの岩瀬昇さんという方(直接面識はないが、ちょこっとだけ接点があった人のお父上であると聞く)のブログはちょくちょく見て勉強しているのだが、今日はこのようなエントリが掲載されていた

新聞などの企業・総合メディアは、専門家の個人メディアの登場により、その水準を即座に検証され判断される受難の時代には行った。刺激されて新たな水準に上がるといいのだが、諦めてしまって居直ってしまわいないか心配になる。この社説と同様なことを言って迎合してくれる「専門家」は常に現れるわけだし。そうなると信頼できる、ポイントをついた議論を求める人は、一層メディア企業を介さず個人をフォローすることになり→そうなると価値が高まるし、手も回らなくなるのである種の有料化やクローズドな媒体に移行する方向に進んで→それを知っていてお金を払う気のある・払える人とそうでない人で、知識による社会の二極分化が固定化されてしまいかねない。

私な二極分化を憂える立場で、公共的議論の場を作り水準を高めようと努力しているが、しかし企業・組織の側が硬直して、二極分化を推し進める側に回って無知な側に大量に売って生き延びよう、というつもりでいるんだったら、こちらは矜持を保てる水準の思考・言論を展開してかつ適切な読者を独自に確保して生き延びることを考えなきゃいけないな、と思う。理想への期待を放棄することなく、人間社会の愚かさに対する備えも怠らない、ということでいいのではないでしょうか。

岩瀬さんのこの本、ずいぶん売れて手に入りにくかった記憶があるのだが、社説界隈には浸透していなかったのか・・・


岩瀬昇『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門』(文春新書)

「新書」という媒体のあり方、近年の実態については色々と言いたいことがあって、それについてはこのブログでしょっちゅう書いていて、また自分がいざ新書という媒体で『イスラーム国の衝撃』を出した際にも、アンビヴァレントな思いが去来したのだが(それについてもあちこちで書いている。『文學界』の最近の寄稿にも)、企業などの現場で長い間経験を積んできた方が、総まとめや区切りの意味で一冊にまとめる、という場合の媒体としては優れていると思う。

実務家の人は、いわゆるアカデミックな書き方はしない人が多いだろうが、情報や知見の実質があれば良い新書は成り立つ。本を出して生計を立てるわけではないから変なものを急いで書いたりしないだろうし。書いたら読者には役に立つし、それをきっかけに講演などが増えたりするのだろう。まとまったテキストがあると主催者・聴衆・話し手のいずれにとっても良いわけだし。

この本、私などが紹介しなくてもとっくの昔に売れてしまっていたのだけれども、改めてここでも紹介。