【寄稿】『週刊エコノミスト』の読書日記(11)は「新しい中世」を読む2冊


『週刊エコノミスト』の読書日記第11回は、田中明彦『新しい「中世」―21世紀の世界システム』(日本経済新聞社、1996年)、そしてヘドリー・ブル『国際社会論―アナーキカル・ソサイエティ』(岩波書店、2000年)を取り上げました。読みどころの引用なども。

池内恵「混沌の国際社会に秩序を見出す古典」『週刊エコノミスト』2015年5月19日号(5月11日発売)、55頁

今回も、電子書籍版には掲載されていません。紙版があるうちにお買い求めください。

この書評連載の全体の趣旨については、以前に長〜く書いたことがあるので、ご参照ください。

「『週刊エコノミスト』の読書日記は、いったい何のために書いているのか、について」(2014/10/01)

この二つの古典的名作が、いずれも絶版になっている点をフェイスブックで問題提起したところ【田中明彦】【ヘドリー・ブル】、アマゾンでは瞬時に中古が売れ払ってしまい、高額なものが出品されるようになりました・・・

中古市場の形成を促した、あるいは再刊・ロングテール市場の必要性を問題提起したとお考えください。数百円で買えた方々はラッキーということで。多少線を引いてあろうが、手元に置いて読めるだけで今や絶大な効用ですよ。先日紹介したイブン・ハルドゥーン『歴史序説』だって、手元に置いていつでも読めるか読めないかで、人生の豊かさは違うだろう。中東を見るときにものの見方が全く変わってくるだろう。

『歴史序説』はそのうち少部数増刷するかもしれないが、それまでの間の時間は大きい。

【寄稿】『ブリタニカ国際年鑑』2015年版「イスラム教」の項目を執筆しました

『ブリタニカ国際年鑑』2015年版の「イスラム教」の項目を執筆しました。「宗教」の中の「イスラム教」を構成する、下記の三つの項目を執筆しました。

池内恵「「イスラム国」による領域支配」「ローンウルフ型テロの続発」「日本人イスラム国渡航計画事件」『ブリタニカ国際年鑑』2015年版、ブリタニカ・ジャパン株式会社、2015年4月、235−236頁

『ブリタニカ国際年鑑』は昨年に続いての執筆です。(昨年については、「【寄稿】ブリタニカ国際年鑑2014「イスラム教」の項目」(2014/04/21)を参照してください)

「イスラム教」をめぐるこの一年の注目すべき事項を、私が三つ選定して書くという、昨年と同じ形式です。

考えてみると、こうやって同じ枠で一年に一度、三つその年の重要な事象を選んで書いていくと、「定点観測」になりますね。こういった辞典項目は依頼を頂いても、十分な紙幅で書けず、徒労のような気がすることもあるのですが、積み重ねると変化が見えてくるかもしれません、と改めて意義を認め直しました。

チュニジアの風景(20)空港でもう一度呑む

やれやれ長かったチュニジア滞在も終わり。帰るぞ。

空港で、搭乗ゲートに近づくにつれて値段が高くなるので、パスポートコントロールを抜けてすぐのところのデリで何かチュニジア産品の写真を、と思って立ち寄ったら、ランチの時間終わったので食事はないよ、あっちいったら食事あるから行け行け、と店員たちがやたらと追い出そうとする。こちらはチュニジア製のワインなどの写真を撮りたいだけなので、いろいろ取り揃えてあるこっちの店の方がいい。

ははーん。この店はセルフサービスでレジで支払う仕組みなので、チップが成立しないので店員に積極的に客を呼び込むモチベーションが働いていないのだな。

押し問答しながら冷蔵ショーケースからあれこれ取り出して支払い。「ユーロかドルか」と聞くので「チュニジア・ディナールで支払う」と答えると「そんなもの持って帰ってどうする。両替しないのか」などという。「また来るんだよ!」と答えてとにかく支払いを済まして並べる。

空港で飲む3

チュニジアといえばやはり再び、ビールはセルティア、モルナーグのロゼ、そして西部アイン・ガールスィー(ガールスィーの泉)から採ったミネラル・ウォーター。

店員さんたちもくつろぎモードで映り込む。

いろいろ角度を変えて撮影していると、向こうでヒソヒソ言っている。

空港で飲む1

どうやら友好人士らしいと結論が出たようで、レジを預かるシェフよりポテトチップのサービスがつきました〜。

レジのところで胸を張ってエッヘンしてます。アラブ男のプライド。

空港で飲む2

ウェイターも並んで胸を張る。

搭乗時間がきました。

チュニス・カルダゴ空港

しばしのお別れ。

**おまけ**

チュニジア近郊電車の客

その目には何が映っているのでしょう。

チュニジアの風景(19)裏窓

チュニジア連載も終わりに近づいてきました。

今回は、のどかで綺麗なだけではないチュニジア社会の一面を・・・・

チュニジアでの滞在先の一つ、中心部のとある部屋の裏窓から見える光景。

裏窓その1

大通りから細道に入ったところにある小さな広場。駐車場みたいになっています。

そこの奥の店なのかガレージなのか曖昧な場所でしばしば人がたむろして何やら相談している様子。

これは何かあるなーと思って暇なときにちらちら見ておりました。

そうしたらある日・・・

裏窓その2

ん、なんだ?警察官風の二人に挟まれて黒服の男が・・・・

裏窓その3

ははーん、捕まってます。

大きいビニール袋を持っていますから、大通りで無許可で店を出していたのか。あるいは何かもっと重大な禁止物を商っていたのか、あるいは盗品か。

裏窓その4

連れられて行ってしまいます。

裏窓その5

行ってしまいましたー。

2010年末、11年初頭のチュニジアの政権崩壊は、こういった露天商への警察の取り締まりへの反発からの焼身自殺をきっかけに全国で暴動が起こったことによって引き金を引かれたのでした。それが今に至るアラブ世界の激動のきっかけだった・・・・

今のチュニジアは、こういった取り締まりへの反発がデモに至るような雰囲気ではありません。政権が倒れ民主的制度と取り入れたことで、政治状況は変わりました。ですが、社会の問題は変わらずに存在するということですね。

チュニジアの風景(18)露天市場

旧市街の観光客向けのスークや、目抜き通りの店で、庶民が買い物をしていることはあまりない。

旧市街の奥深く、横道を歩いて行った先にぽっかりと広がる空き地に、露天市が立つ。

露天市場へ

庶民市場1

庶民市場4

粗末な板や段ボールの上に商品を置いている。

庶民市場5

庶民市場2

庶民はこういうところで買い物するわけですね。

庶民市場11

庶民市場3

庶民市場7

庶民市場8

庶民市場9

露天市場の周りの店は問屋のようで、入るとこんな感じの陳列の仕方。

庶民市場棚1

もちろん新市街ではこういったスーパーマーケットがあって、こっちで多くの人たちが買い物しています。

買い物はモノプリ

チュニジアの風景(17)スークでお買い物

こちらは地元向けの店。

靴屋さん

女性用のブーツ屋さんですね。

私はあんまり観光客向けの店に近寄らないしカメラを向けないので写真がありませんが、チュニジアで土産物を買おうとすると、革製品ではスリッパをよく売っている。ただ、旧市街のスークでふっかけられたり値切ったりしても、本当に良いものを買えるかどうかわからない。

そんな時、とある隠れ家のような場所に行くと、最高級のこれはというものを飾ってあります。値段はスークの店で買うよりも何倍かするのでしょうが、良いものであることは間違いない。

チュニジア最高級革細工

チュニジアの風景(16)旧市街を歩く

私はあまりアラブ諸国の旧市街のスークを歩いたりしないのだけれども(観光客向けだから)、チュニスの場合は旧市街を通らないと用事が済まないことも多く、急ぎ足で何度も歩いた。

旧市街の東西主要な道は二本ありまして、一本は観光客向けの店が多い。

カスバ観光客

常に各国からの客でごった返しています。混雑してくると列を作ってノロノロ歩かないといけないことも。

カスバ庶民市場

一方、地元の人向けの店が並ぶ道もある。日中の荷物の運搬もこっちの方が激しい。

カスバの賑わい2

賑わってます。

カスバの横道1

こんな横道がいっぱいある。アーケードみたいになっている。

カスバ横道

一般の家に向かう道。

チュニジアの風景(15)旧市街に向かう

旧市街を歩いてみよう。

ブルギバ通りの西の端からもう少し行くと、フランス門がある。ここが旧市街への入り口。

フランス門へ向かう1

フランス門へ向かう2

渋滞する車の間をすり抜けていく。

チュニス旧市街フランス門

欧米語でフランス門と呼ばれているが、アラビア語ではバーブル・バハル(海の門)。

フランス門をくぐる

海の門をくぐると・・・

フランス門1

噴水のある広場へ。

フランス門2

楽しそう。

フランス門の配達

旧市街に卵の配達か。

フランス門前広場

こんな感じの店が、これから入る路地に並んでいる。

フランス門前広場2

さあ旧市街に踏み込んでみよう。

カスバ入り口

チュニジアの風景(14)フランス風レストランでの朝食

高級なホテルで朝食。19世紀のパリをそのまま残したようだ。

チュニジア食朝食

オレンジジュースを絞ってもらった。

チュニスホテル天井

天井がきれい。

チュニスホテルの朝食

この日は商談している人たちもいた。

チュニジアの風景(13)ミントティーに松の実を

チュニジアではミントティーに松の実(ピニョン)を入れます。普通のミントティーが「ナアナーア」ですが、「ピニョン」と頼むと入れてくれます。高くなりますが、一風変わって美味しいですよ。

チュニジア食紅茶に松の実

チュニジアの風景(12)魚が旨い

チュニジアはアラブ世界で例外的に魚が美味しい。

チュニジア食魚スズキ

スズキでしょうか。さっとグリルした新鮮な魚がうまい。やはり焼きサラダが添えられている。

チュニジア食スズキ2

こっちも同じ魚かな。

チュニジア食魚グリル

いろいろ魚介ミックスグリル。

チュニジア食アブーザッルーク

お高い店でイカのグリル。

別の店で、魚のクスクスを頼んだら、タイが綺麗な姿煮でやってきて感動したのだが写真を撮り逃がした。

チュニジアの風景(11)ブリックを食べてみよう

チュニジアといえばブリック。

チュニジア食ブリック

サクッとした皮にナイフを入れると半熟卵と肉汁がこぼれ出る。

チュニジアの風景(10)前菜はハリッサ

チュニジアで飲む(その2)

どこのレストランでも飲み屋でも、前菜というとこのハリッサという赤いディップみたいな前菜が出てくる。唐辛子が効いている。辛さは店によってまちまち。

チュニジア食前菜はハリッサ

たいていは上にツナが載っている。オリーブの実が添えられていたり、オリーブ・オイルに浸してあったりする。

チュニジア食前菜ハリッサ高級

高級レストランの前菜にもやはりハリッサがちょびっと(スィーディー・ブーサイードの「アブー・ザッルーク」)。

チュニジア食前菜

前菜によく添えられている、玉ねぎとセロリと白菜の中間ぐらいな野菜。ばりばり食べます。

チュニジア食焼きサラダ2

チュニジア名物焼きサラダ。

チュニジア食焼きサラダ

こっちでも。

チュニジア食飲み屋のつまみセット

簡素な前菜セット。ソラマメのふかしたのも。

チュニジア飲み屋セルティア

チュニジアのビールといえばセルティア。泡が多すぎたのでしばし待つ。

チュニジアの風景(9)酒が飲めるぞ

チュニジアは酒が飲めます。

薄暗い酒場で地元ワインをいただく。

チュニジア酒場2
シャトー・モルナーグのロゼ

チュニジア酒場1
マゴンの赤

チュニジア飲み屋4
思い思いにくつろぐ。

ブルギバ広場飲み屋街
夜更けの飲み屋街。そろそろどこも閉店。ブルギバ通りの横道。

チュニジアの風景(8)色鮮やかな扉

チュニジアといえば、色鮮やかな、風合い豊かな、ドアで有名。

絵葉書とかでも様々に売っています。

いくつか写真を撮ってみました。あくまでも偶然通りかかったところだけ。

チュニジアのドア1

チュニジアのドア2

チュニジアのドア3

チュニジアの風景(7)雨に打たれるイブン・ハルドゥーン像

イブン・ハルドゥーン像について書きかけて、『歴史序説』日本語訳が文庫でまで絶版(なんのための文庫なんだろう)と知って絶望してしまったが、気を取り直してチュニジア報告。

ブルギバ広場のイブン・ハルドゥーン像。ちょっと別のアングルで見てみましょう。

正面から、少し引いたところから。

ん?

イブン・ハルドゥーン像3

有刺鉄線が写っていますね。

実は、ここのところ、ブルギバ広場のイブン・ハルドゥーン像は、こうして有刺鉄線で囲まれてしまっているのです。

もう少し引いて横から。

イブン・ハルドゥーン像とフランス大使館

見えにくいかもしれませんが、ぐるっと有刺鉄線で囲まれてしまっています。

これはテロ対策でしょう。

といっても、イブン・ハルドゥーン像がテロで狙われるというのではないでしょう。写真の背後の赤みがかった建物が、フランス大使館で、おそらくここを狙ったテロを防止するか、この前でのデモを阻止するために、イブン・ハルドゥーン像のある一体に有刺鉄線を張って、入りにくくしているのです。

大聖堂イブン・ハルドゥーン像前

ちなみに、イブン・ハルドゥーン像を挟んで、フランス大使館とブルギバ広場の反対側で向かい合うのは、カソリックの大聖堂(Cathedral of St. Vincent de Paul)です。大司教を擁する、最高位の大聖堂です。

イスラーム世界の社会と政治を宗教的ドグマにこだわらずに客観視したイブン・ハルドゥーンの像が、フランス大使館とカソリック大聖堂に挟まれて、内務省当局が張った有刺鉄線に囲まれ(守られ)てかろうじて存立し得ているように見えるのは、現在のアラブ世界の混迷を象徴しているようであります。

そう思って、上のように、イブン・ハルドゥーン像が雨に打たれている寂しい写真を撮ってみました。