【寄稿】『東大教師が新入生にすすめる本 2009−2015』

刊行されました。

『東大教師が新入生にすすめる本 2009-2015』東京大学出版会、2016年

以下、フェイスブックでこの本について掲載した文章をそのまま貼り付けておきます。

春の読書案内にどうぞ。

『東大教師が新入生にすすめる本 2009−2015』(東京大学出版会)。3月末に刊行されたところです。

恒例の、4月に東大出版会の雑誌『UP』が各分野の教師を抽出してアンケートをとって掲載する読書案内の、最新版の書籍化です。これまで二冊、文春新書で出ていたのですが、今回は東大出版が書籍化しました。私は2012年のところに執筆しています。

私の同年代の人も多くなっているなあ。

アンケートを集めただけではなく、本の後半の第II部は「学問の奇跡を読む」と題して12の分野について重要な著作を紹介したエッセーが載っている。

法学(井上達夫。『リベラルのことは嫌いでも〜』の先生)、政治学(宇野重規)、歴史学(宮地正人)、社会学(盛山和夫)といった執筆者が、それぞれの学問の核となる文献や、その分野が取り組んで抱えてきた課題などに切り込んでいる。

私などは「東大教師」と呼ばれるのも恥ずかしい、理工系の研究所にイスラム政治思想という「分野」を設定してもらったおかげで学内ベンチャー企業のように属しているだけなのですが、でも春は法学部・公共政策大学院と文学部、秋は教養学部で精一杯教師やるときはやってます。

同時に必死に研究所で成果出します。邪魔しないでください。善意のご依頼が切実に私の研究の阻害要因
になっていることもあります。

個別にお話ししているともう手が回らないので、非公開のセミナーを専門家やメディア向けに先端研でやろうか、などという話も温めています。そういったいろいろな形で世の中に還元していきます。こういった本もそういった努力の少しの一部です。

【寄稿】『週刊エコノミスト』の読書日記、今回は「文系学部廃止」を考える

5回に1回連載が回ってくる『週刊エコノミスト』の読書日記、今回は、「文系学部廃止」問題を考えております。

池内恵「『文系学部廃止』で考える大学の未来像」『週刊エコノミスト』2016年4月12日号(第94巻第16号通巻4445号、4月4日発売)、59頁


『週刊エコノミスト』2016年04月12日号

この連載の通常通り、Kindleなど電子版には収録されていません。

取り上げたのは、なのですが、コラムでは私の考えていることばかり書いてしまっているので、あまり書評にはなっていないかもしれません。著者は著名な研究者でありつつ大学行政にもかなり関与したことのある人で、実際に研究と教育をする立場からの改革論になっていますので、読んでみてください(関係ないがタイトルに「衝撃」とつけるのがプチ・ブームなのか)。

考えてみると、受けた教育は全く文系ですし、極端に文系人間だと思うのですが、私は職業人としてはほとんど「文系学部」にお世話になったことがありません。

国際日本文化研究センターという、文系の中の異端的な機関に勤めた事はありますが、日本の大学の普通の文系学部とはおそらく全く違う環境だでした。そもそも文系学問をやりつつ、文系学部の弊害を取り払おうというのが一つのコンセプトで出来た機関だったからでしょう。国文学や国史学といったベタでドメスティックになりがちだった文系学問を、無理やり世界や社会に開くことを任務としていて、その代わりに人文研究者にとって最適の環境を与える、なんとも独特の場でした。文系は文系だけど、「学部」でもないですし(大学院博士課程のみですので、「学部」ではないのです。業界用語で分かりにくいかもしれませんが)。

今は東大の中の先端科学技術研究センターというところで、イスラム政治思想の「分野」というものを作ってくれたので、かろうじて東大の中にいますが、もはや「文系」でも「学部」でもないですね。最初の就職先もアジア経済研究所という経済産業省所管の開発研究を行う機関でしたし。

考えてみると、東大で現代中東をやっている人は昔も今もほとんどいなくて、社会的要請といったものに実際に応えてくれるのは理工系の学部であったりする現実も、身を以て感じています。しかも、別にグローバル・ジハードがここまで大問題になった現在じゃなくて、全くそんなものが話題にならなかった2008年に迎えてくれていたんだからね(私は大学院では工学系の先端学際工学専攻を担当しています)。理工系の人の独特の勘とか先読み力とか行動力を文系学部の人もちょっとは見習って欲しいと、私としては思います。(こういうことはコラムには書いていません)

しかし文系学部の担っているものは確かに非常に大きくて、それは目に見えないかもしれないが、なくなると非常に困る。文系学部はもともと小さな資源しか配分されていないので、無くしたってたいした節約にならない。ただ、文系学部が今のままでいいかという、そうでもないんじゃないかという気がするが、それは外からいじって良くなるものでは全くない。知りもしない人、知ったつもりになった人たちが外からいじればいじるほど悪くなるといってもいい。私自身は文系学部の中で仕事をしたこともないのだが、外からの観察をボソッとつぶやいたのが今回のコラム。