「反知性主義」が現代社会の重要で興味深い現象であることは確かだ。
それについて読むならこの二冊だろう。
まず、「反知性主義」に対する最近の関心の高まり・深まりを代表するのが、森本あんり『反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)。
基本的には「近年の学問的話題」としての「反知性主義論」の成果はこれだけ。あとは全部便乗本です。最近便乗本を出す速度だけは早くなってきているので、いい本が出ていいテーマが提起されたな、と思う間もなくあっという間に便乗本が溢れて、そういうのは大人数で書いているからそれぞれが大声で宣伝して、実際に学術的な知見を提示している人の声がかき消されてしまう。
この本についての最もいい紹介は「週刊新潮」の匿名記者の短評紹介だったな・・・自社本宣伝とはいえ、いい線をついていた。アメリカの反知性主義とはそれ自体がある種の知性的立場でもあり、近代的の(特にアメリカ的な)な専門家支配とか世俗主義などを疑う、社会の底流から湧き上がる思想でもある。ある意味「週刊新潮は、本来の意味での反知性主義をめざす雑誌です」と静かに宣言しているような短評だった。匿名記者さんがんばってください。といっても私は年に2回ぐらいしか読みませんが。偶然手に取ったらこの本の書評が載っていたので私の中での『週刊新潮』への評価が若干上がった。
『週刊新潮』の短評が最もよく捉えていたように、「反知性主義=バカ」なんて話ではない。この本を書いている著者はまさに神学者だ。サブタイトルとか帯は出版社がつけるのでよくある日本の「反知性主義批判本」におもねっているが、中身はもっとずっと深いし、神学者という著者の立場からの主体的な問いかけであることが明瞭だ。反知性主義とその批判という思想問題は、「俺はかしこい、あいつらバカ」と言い合っている次元の話じゃないんだよ。しつこいけど、何度も言わないとわからん人がいるので。
そしてもう一冊、「反知性主義」を議論するなら、ブームになる前に読んでいなければいけなくて、まだ読んでないんだったらこっそり読んで以前から読んでいたふりしないといけない本はこれでしょ。あえて指摘するまでもないと思って指摘しないでいると、乱造本だけ読んで議論する人たちが出てくるから、そういう面においてこそ「反知性主義」は極まっているなと思うよ。
リチャード・ホーフスタッター『アメリカの反知性主義』(みすず書房)